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機動6課副部隊長の憂鬱な日々
外伝
外伝1:フェイト編
第12話:そして廃工場へ
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で、男はひとりきりだった。
広い部屋の窓際に置かれた椅子に深く腰かけ、ぼんやりと外の景色を眺めていた。

(俺のやっていることは本当に正しいのか?)

男は小さく嘆息すると、机の上に置かれた書類を手に取った。
その中には次年度の時空管理局全体の予算計画が記されていた。

(だが、このままでは・・・)

男は何枚かをめくり、過去10年ほどの予算の推移を表すグラフを見た。
それは男が何度も見、そのたびに怒りの炎を静かに燃やす燃料となってきた。
今回も例外ではなく、男はその鋭い目をわずかに細める。

グラフには3本の線があった。
それらの傾向は明確に別れていた。
1本はほぼ水平に。
1本は緩やかに右肩上がり。
最後の1本は緩やかな右肩下がりのグラフとなっていた。

男は右肩下がりになっている一本を目でなぞるようにみると、
書類を机の上に放り投げた。

(普通の人々が生活を営むのは陸の上なのだ。
 その平和と安定を守らずして何が"法の守護者"か!)

男は再び窓の外を見る。
はるか下に見える街で母娘連れが手を繋いで歩いているのが男の目に留まる。
弾むような足取りで母親の手を引く娘とそれを微笑ましげに見る母親。
男が望む"日常"がそこにはあった。
だが、男はそんな"日常"が真っ赤に塗りつぶされる光景を何度も見てきた。

抱き合ったままこと切れた親子。
真っ赤に血塗られたぬいぐるみを握る手首から先だけになった小さな手。
犠牲者名簿に並ぶたくさんの家族。

地上本部に所属する指揮官として、常人ならば精神に失調をきたすであろう、
それらの光景を数多く目の当たりにしてきた男は、なお冷静で沈着であった。
そして、それ以上に怜悧であった。

人々の生活を守るための地上本部の増強。
それが、地上本部の高官となった男の目標だった。
そのためにはなんでもした。

同期入局の仲間を蹴落とし、なりふり構わぬ予算獲得に動き、
有望な若手には悉く勧誘の声をかけた。

だが、物事は彼の思惑通りには進まない。
時空管理局は次元世界の大局的視野でみた秩序維持機関であって、
小市民の安全を守るための機関ではない、という上層部の認識を覆すほどの力を
彼が持ち合わせているわけではなかった。

本局こそが時空管理局の本来機能であり、地上本部はその補助的機能を
持つだけである。
従来は暗黙の了解であったそれが上層部によって明言されたことに対する、
時空管理局中央の反応は迅速であった。

より多くの予算と人を本局へ。
その流れは明確で、抗うのは困難だった。
だが男は己の信念のもと、この流れに立ち向かった。

"これ以上、地上本部が弱体化すれば最低限の治安維持機能すら維持できない"

男に
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