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魔狼の咆哮
第一章その三
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第一章その三

「子供の頃母親に聞かされました、あの野獣のことは。悪い事をすると野獣に食い殺されるぞ、ってね。我々にとってあの獣は恐怖そのものなのです。例え死んでいようが時が何百年と過ぎようが」
「・・・・・・」
 二人はそれ以上言葉を出せなかった。それ程あの野獣が怖れられているということは解る。それ以上にこの地の人々の心の中には今だ生き続けているという事に戦慄を覚えたのだ。
  その夜二人は旅館の一室に宿をもらった。ポトフと兎料理、ボイルドベジタブル、ポテトサラダと赤葡萄酒を食べ終えると風呂
に入りその後部屋に入った。木造の簡素だが落ち着いた造りの部屋だった。
「役さん、刑事さん達のことどう思います?」
 ランタンに照らされた暗がりの中でベッドに入りつつ本郷は役に問うた。服は脱ぎシャツとトランクスになっている。
「野獣のことを意識し過ぎているな。だからこそ我々を呼んだのだろうが」
 椅子に腰掛けている役が答えた。スラックスの上に白いガウンを羽織っている。
「野獣といっても狼でしょう?そんなに大きくもないだろうに」
「ニホンオオカミとは違うぞ。ヨーロッパのオオカミは我が国のものより遥かに大きい」
「あ」
「それだけじゃない。群れの数もニホンオオカミよりも多い。群狼戦法という言葉は伊達じゃない」
「そんなに違うんですか」
「日本の様な山岳に住んでいるのではないからね。平原や森林に住んでいるから大きさも群れの数も変わるんだ。大きな群れだと百匹を越えるものもあるそうだ。このフランスだと冬のパリを包囲した狼王クールトーが有名だ」
「百匹・・・ですか。凄いですね。それだけいれば街も囲めますね」
「群れによる集団行動こそ狼の強さだ。だがあの野獣は一匹で行動していた。群れを為す狼だというのにね」
「いつも一匹だったんですか?群れからはぐれた一匹狼だとしても妙ですね」
「そう思うだろう。それにあの野獣は犠牲者の首を切ったり窓に寄りかかったりと狼とは思えない行動が多かった。まるで人間の様だったという話も残っている。毛深い大男がいたすぐ近くで野獣が目撃されたという話もある」
「じゃああの野獣は人狼だったんですかね」
「三年に及ぶ惨劇の後野獣と思われる巨大な狼らしき獣が射殺された。暫くしてもう一匹。それ以降野獣はいなくなった。射殺されたからだと皆思った。ジェヴォダンの平和が甦った」
「一件落着、ですね。けれど射殺されたどちらか、あるいは両方共本当に野獣だったんですか?」
「そういうことになっている」
「そして本当に狼だったんですかね」
「本当の事を言わせて貰うと私は狼ではないと考えている。今回の事件も合わせてね。おそらく野獣はあの時射殺されている。どちらかは解らない。君の言う通り両方共野獣だったのかも知れない。あの時狼かそうで
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