暁 〜小説投稿サイト〜
魔狼の咆哮
第一章その二
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第一章その二

「はい。狼は獲物の首は切りません。しとめる為に喉笛を噛むことはあっても。しかも爪、といいますが虎や豹といった猫科とは違い犬科は爪はほとんど使いません。ここまでくると狼の襲撃ではなく別の生物の凶行としか思えません」
「やはりそう思われますか」
 署長が答えた。
「ええ」
「・・・御二方は日本の方なので御存知ないかも知れませんがこのヨーロッパは森に囲まれた土地柄犬や狼の化け物の話が結構ありましてね。例えばイギリスのヘルハウンド」
「コナン=ドイルの小説にもなっていますね」
「よく御存知で。他にも黒犬や北欧神話のフェンリル。身近にいた分多いのです」
「特にこのジェヴォダンは有名ですね」
「・・・・・・はい。やはり知っておられましたか」
 署長の表情が更に暗くなる。
「ええ。百人以上の人を喰らったという『ジェヴォダンの野獣』。我が国でも知られています」
「そうなのです。皆あの野獣が地獄から這い出てきたと噂しているのです。マスコミにも取り上げられ恐慌寸前の有様です」
「そりゃあかなりやばいな。あれ、署長さんさっき言った狼の化け物の中に一つ抜けてるのがあるぜ」
 本郷が口を挟んだ。
「・・・これですか?」
 アラーニャ巡査長が一枚の絵を取り出した。
「それは・・・」
 モンタージュ絵だった。そこに描かれているもの、それは人ではなかった。
 黒く大きな身体を持っている。その身体は太く短い毛に覆われている。人間によく似た身体つきだが人間ではない。筋肉が異様に発達した手足はある。尻尾も。それは犬のそれに酷似している。
 黒い毛に覆われた顔は口の部分が大きく突き出ている。開かれた口からは禍禍しく曲がった牙が生え平べったく長い舌がある。眼は細く血の色をしている。耳は頭の上にある。それは狼のものだった。
「人狼・・・・・・」
「事件が起こった時目撃したという人がいましてね。我々も最初は馬鹿馬鹿しいと相手にしなかったのですが目撃談が相次ぎましてね」
 再び署長が話し始めた。
「・・・・・・・・・」
「我々も無視出来なくなったのです。そこでお御二人を日本から御呼びしたのです」
 二人へ顔を向けた。
「怪奇事件専門の探偵社『封魔』の誇る二人の探偵、本郷忠と役清明、この事件の解決及び捜査への御協力、重ねて御願します」
「喜んで」
「了解しました」
 二人は署長と手を握り合った。
「人狼か。映画ではよく見たけど相手をする時が来るなんてな」
 旅館を出て本郷と役は調査の為村を歩いていた。
 緑の森に囲まれ小川のせせらぎと水車の回る音が聞こえるのどかな村である。小鳥がさえずり魚がはねる。昔の良き面影をそのまま映し出した様な風景である。無残な事件が起こった以外は。
「確かドイツの化け物じゃなかったっけ?記憶があ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ