暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
勇者の狂宴
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だ。

溺れた者は藁をも掴む。

窮鼠は猫にも噛みつく。

懸命な物はしばしば道から外れやすく、必死な者は小さな物でも噛み付くようになる。

たとえ僅かな可能性にでも、全てを犠牲にして。

ジャキッ、とキリトは手の中の《潔白(オートクレール)》を左肩に担ぐようにして構える。その切っ先と視線を、射殺すように《鬼》に向ける。

その視線に反応したかのように、先刻から身体が燃え尽きるほどにレンから放出されている怒気が跳ね上がった。

しかし、キリトには判る。

その怒りは、まるで玩具を買って貰えない子供のよう。その言葉も、裏切られ、すすり泣いている小さな子供のようだった。

「だけどなぁ────」

ギシ、とキリトは己が獲物を握り締める。

呼応するかのように、刀身が恒星のような輝きを放ち始める。見た者全ての視覚情報を焼き払う純白の光は少しも衰えることを知らずに、どんどんとその輝きを強くしていく。

「そろそろ、終わりだバカヤローッッ!!」

ゴッ!!と鈍い音が世界を震わせ、瓦礫が天高く舞い上げられたのと同時。キリトの黒衣の姿が掻き消えた。

そのコンマ数秒、瞬きすらも許さないほどの間隙の後。

大空にヒビが入った。

キリトの刃の切っ先は、レンが周囲に垂れ流している過剰光にギリギリのところで止まっていた。

眼前にある《鬼》の顔が、もはや醜悪なまでに歪む。

「そンな付け焼刃ノ《神装》デ僕に勝てルと思ってンの?」

舌打ちする間さえも与えられなかった。

急所(みぞおち)に、身体が半分になるかと思えるほどの衝撃が走った。

仮想の身体が、とっくにシステムの枠すら超え、現実世界ですらありえないほどのダメージに軋む。

だがそれでも、キリトは必死に堪える。ギリ、ギリ、と。

「う……らあああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

全てを堪え、そして薙ぎ払う。

それすらも、まるで硬いゴムの塊でも殴っているような衝撃とともに、防がれた事を手に伝えてきたが、キリトはそれすらも無視して無理やりに、強引に腕を振り切った。

寺の鐘の音のような大轟音が耳朶を打つ。

小柄な身体が弾かれたように消え、壁のようにそびえ立っている世界樹の幹に突進する。

通常ならば幹に突き刺さるのだろうが、幹の周辺数メートルの進入禁止コードに阻まれた。紫色の閃光と乾いた衝撃音が鼓膜を揺らす。

空中に止まっていたレンは、やがてずるずると地上の重力に引きずられて瓦礫の中に落下した。

ガラシャアーン、という今となっては軽すぎる音が響く。

ハァ、ハァ、と、白い息が空中に吐き出されては消えていく。

終わった。

そう思ったが、あまりにも被害が大きすぎた。


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