暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
長き夜
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も、言えない。

これほどまでに頑張る人間を目の前にして、そんな事などできるはずもない。

二ヶ月前、紺野木綿季は他の約五千七百人の旧SAO帰還者と同様に、現実世界に無事に帰還した。

帰還した木綿季が一番にやった事は、駆けつけてきた《総務省SAO事件対策本部》の人間と名乗る男に、従弟(いとこ)である小日向蓮の現在入院している病院名を問い詰めることだった。

突き止めた彼の病院は、偶然にも同じ病院だった。

群がる看護婦の制止の声を無視し、点滴台を支柱にして辿り着いた蓮の部屋。

息も絶え絶えに入室した木綿季を待っていたのは、相も変わらずにナーヴギアを被って昏々と眠り続ける少年の姿。

そして、その姿をどこかもの悲しげに見る、蓮の住んでいるアパートの住人である深瀬だった。

眼を一杯に見開いて立ち尽くす木綿季をちらりと見、画家は言った。

行っちまったよ、と。

蓮とは、ALOで週一で行われる定期メンテナンスで、彼が現実世界に帰還しなければならない時にかなりの口論をした。

喧嘩もした。

絶交もした。

それでも、どうしても嫌いにはなれなかった。だって、子供の頃から家族のように、いや家族そのもののように過ごしてきたのだから。

両親を亡くした時、姉である紺野藍子(あいこ)を亡くした時。

いつも、この少年は自分の側に居てくれた。

励ましてくれた。

慰めてくれた。

自分はそれに甘えていただけ。

ただそれにすがりついていただけ。

木綿季は、ベッドに歩み寄る。右手を上げ、こけた頬に手のひらを当てる。

びっくりするくらい冷たく、硬直した皮膚。

そう。まるで、死人のような。

それでも、木綿季は臆さずにその頬を何度も、何度も撫でる。

あどけないその寝顔を見ながら、木綿季はぼんやりとこの胸にわだかまる感情はいつからあるのだろう、と胸中で呟いた。

胸の奥深く、ずっとずっと深い所で疼いているこの不思議な感情。それが恋心と呼ばれる物だと気が付いたのは、初めて感じた時から随分な時が経った時だった。

知った時は、あぁやっぱりな、と思った。

漫画のヒロイン達が恋する理由としては、既にできすぎていたからだ。

しかしそれでも、蓮は今こうして、木綿季とは違う者のために命を懸けている。

別に、それに嫉妬しているとか、そんなことはない。まぁ、ないと言われれば嘘になるかもしれないが。

単純に、羨ましかった。

そのココロを一身に受ける、あの純白の髪を持つ少女のことが。

「……………………」

スッ、と木綿季は手を下ろす。

柔らかな笑みを浮かべ、一歩だけ下がった木綿季は胸中でちょっとだけ、ごめんね、と蓮に謝りながら、身を屈め─
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