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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十五 〜南皮〜
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 密かに荀ケを捕らえ、送り出したその日。
「ご主人様、お待たせしました」
 宿舎に、愛紗が現れた。
 どうやら、かなりの強行軍で来たらしく、兵共々、疲労が見て取れる程だ。
「ご苦労。ひとまず、ゆるりと休むが良い」
「いえ、お気遣いなく。ご主人様達をお守りするのが我が役目、これしきの事で音を上げる訳には参りませぬ」
 真面目な愛紗らしい返答。
 だが、無理をさせるつもりもなければ、その必要もあるまい。
「愛里(徐庶)。愛紗を部屋に連れて行ってくれぬか?」
「わかりました」
「ご主人様、私は……」
「愛紗、これは私の命令だ。良いな?」
 愛紗は唇を噛み締めた後で、
「……わかりました。ご命令とあれば、仕方ありません」
 大人しく、愛里と共に出て行った。
「その方らも休息を取れ。ここは袁紹殿の城中、安心して休むが良い」
「はっ!」
 兵らは、安堵した様子で、それぞれの部屋へと向かって行った。
「将が休まないって言ったら、兵の皆さんも休めませんからねー」
「その通りだ、風。……その点、愛紗は生真面目過ぎる。少しは星を見習った方が良いのかも知れぬな」
「それはどうですかねー。真似をするのはいいのですが、星ちゃんみたいに不真面目が服を着て歩く存在が二人とか、お兄さんが苦労すると思うのですよ」
 そう言う風はどうなのだ、と言いかけたが、止めておこう。
 戻ってきた愛里は、
「やはり、お疲れだったようですね。着替えた後、すぐに眠ってしまわれましたよ」
 そう、報告した。
「今日一日は休ませてやるが良い。明日、変わりがなければ出立で良かろう」
「ですねー。袁紹さんに影で指示していた人も突き止めましたし、もう此処には用がありませんね」
「それに、あまり長くギョウを不在にする訳にもいきませんから。後で、暇を告げに参りましょう」
 同じ州内とは申せ、任地を離れているのは確かに不適切だ。
「よし。では袁紹に……」
 私がそう言いかけた時。
「土方様。袁紹様より、城中までお運び願いたいと使者が参りました。如何致しましょう?」
 取り次ぎに出た兵が、そう告げた。
 思わず、二人と顔を見合わせる。
「どうやら、使者を出す手間が省けたらしいな」
「それにしても、袁紹さんから呼び出すなんて、一体何でしょう?」
「行けばわかりますから、今から気にしても仕方ないのですよ」
 全くだな。
 荀ケ以外には策士がいる可能性は、まずなかろう。
 それに、此方には風と愛里がいるのだ、何の懸念もない。


 袁紹の様子が、明らかにおかしい。
 あの、尊大な態度こそそのままだが、何処か気も漫ろ、という印象がある。
 荀ケは当然として、顔良も姿が見えぬ事が原因なのであろうか。
 その代わりではないのであろうが、文醜が側に控え
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