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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
外伝その1  薔薇園にて
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楽しんで本を読む、まさに優雅な貴族生活ですよ」
堪えられないように笑い出したのはエル・ファシル公爵の取り巻き達だった。レベロ補佐官は腹を押さえている。公爵が顔を顰めた。驚いたな、どうやら図星かよ……。

「私が思うに閣下は生まれる場所を間違えたんです。同盟などに生れず帝国貴族の家に生まれるべきでした」
「何を馬鹿な」
公爵が抗議したけれど親っさんはまるで気に留めなかった。

「閣下は本質的に怠け者ですから家臣に殆どお任せでしょう、でも人を見る目が有るから領内統治はまずまずだったでしょうね。金のかかる趣味も無いから浪費も無いですし女癖も悪くないから後継者問題で悩む事も無い。家臣からも領民からも敬愛されたと思いますよ。それを同盟なんかに生まれるから軍人になって戦争する事になったんです」
「……」
“なるほど、確かにそうだ” 取り巻きの一人が呟くと公爵が睨んだ。でも恐れ入る様子も無い、血色の好い三十代後半の男はしきりに頷いている。

「ようやく本来の有るべき姿に戻ったんです。今はまだ慣れないので反発していますがそのうち感謝して頂けると私は思っていますよ」
「誰が君に感謝などするものか、私は君が大嫌いなんだ」
嫌いだと貶された親っさんが嬉しそうに笑い声を上げた。

「有難うございます。何とお優しいお言葉か……」
「……」
皆目が点だった。エル・ファシル公爵でさえあっけにとられる中、親っさんが言葉を続けた。

「私と閣下が仲良くすると帝国には心配する人が居るのですよ、二人で悪い事をするのではないかと。でも閣下は私を嫌いだと言ってくれましたからね、これで私達も安全です。皆、公爵閣下に御礼を言いましょう」
え? 御礼? 皆顔を見合わせたけど親っさんが“有難うございます”って言うから俺達も“有難うございます”って続けたよ。公爵の取り巻きも“有難うございます”って言った。嫌がらせかな、公爵は顔が引き攣っていた。

「よっく分かった。君がどうしようもない根性悪でロクデナシだという事が。危険視されるのも当然だろう」
だから親っさんに喧嘩売っちゃ駄目だって。ほら嬉しそうにしてるだろう。
「少し違いますね、宇宙一の根性悪でロクデナシですよ。それに危険視される要因の半分は公爵閣下、閣下の所為なんです。私は被害者ですよ」
親っさんが澄まして言うと彼方此方から笑い声が起きた。

「私は君が大っ嫌いだ! 顔も見たくない!」
笑い声が益々大きくなった。俺達も公爵閣下の取り巻きも皆が笑っている。あーあ、薔薇の花が綺麗だ、宇宙は平和だなあ……。




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