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駄目親父としっかり娘の珍道中
第37話 願い事ってのは大概気がついたら叶っている
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 狭い路地裏の中を、私は一人走っていた。
 私に名などない。今の私には名前など不要だったからだ。薄暗い路地裏の中を、私はただひたすらに走り続けていた。
 何故そんな場所を走り続けているかだって? それは、私の本能がそうさせているとだけ言っておこう。
 私の本能がそう告げているのだ。この路地裏を走り続けろと。
 辺りに気配は感じられない。恐らくこの路地裏で走っているのは私だけだろう。まぁ、こんな薄暗くて薄汚い路地裏を走り続ける輩など、江戸広しと言えども私位な物だろう。
 腹部に苦しみを感じた。その苦しみに耐えられず私は足を止めた。そろそろ限界だろう。
 此処いらで済ますとしよう。私は立ち止まった位置から周囲を見回した。流石は路地裏だ。辺りにゴミが散乱している。その種類も様々だ。
 空き缶、何かの包装紙、弁当の箱にジャスタウェイ、等など、多種多様なゴミが散乱している。
 だが、私が探していたのはそんな類じゃない。もっと別の類だったのだ。
 ふと、私の目に止まった。青くて巨大に聳える堅牢な砦。何人の侵入を許さぬ鉄壁の守りを誇るその青き巨塔。それこそ、私の捜し求めていた物だった。
 私は腹の苦しみを堪えて走った。あそこに私の求めている物がある。あそこにある物があれば、私のこの腹の苦しみから解放される。そう信じて、私は塔をよじ登った。流行る気持ちを抑えつつ、私はよじ登った。
 その塔の天辺に辿り着くと、私は天辺で体を左右に激しく揺らした。私の揺れに反応し、塔もまた激しく左右に揺れる。
 遂に塔は倒れた。私は目的を成し遂げたのだ。
 塔が崩れ落ち、私は横倒しになった塔の中を見る。
 塔の中に、それはあった。まだ新しい、これこそ私の求めていた物だった。
 そう、弁当の残り物である焼き鮭。しかも全然手をつけていない状態の物だ。
 私は思わず舌なめずりをした。久しぶりのご馳走だ。それにありつこうと青い塔から鮭を取り出す。
 地面に無造作に放り捨て、この獲物を横取りする輩が居ない事を確認し、私は口を開いた。

「おい!」

 声がした。馬鹿な! 私の他にこれを狙う輩が居ると言うのか?
 私は声のした方へ視線を向けた。其処には私と同じように路地裏を歩く者が居た。
 大きい。私よりも遥かにそれは大きかった。まるで巨人だ。
 赤茶色の毛皮を纏い、その下は痩せこけた体をしている。私に比べて毛並みは薄めだった。その巨人が、私を睨んでいたのだ。
 その目はうつろでいて、生気が感じられない。まるで、死人のように。

「その鮭寄越せええええええええええ!」

 フギャーーーーー!
 私は一目散に逃げ出した。情けない話だ。この江戸の町で、私みたいな野良猫はとても生き難い町となってしまったようだ。
 私は折角のご馳走にありつけなかった事
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