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駄目親父としっかり娘の珍道中
第34話 思い出は遠き彼方へ・・・
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遠くに居るので避難も容易い。
 寧ろ皆が近くに居る方が厄介に思えた。戦闘に関して初心者のなのはが回りに気を配れる筈がない。
 寧ろ一対一のサシでの勝負は臨む所だった。

「待たせたね。それじゃ、行こうか」

 誰に言う訳でもない。自分自身にそう言い聞かせる。まず右足を大きく前に踏み込んだ。大地に足をつけ、強く踏みしめる。
 ゆっくりと、だが確実にその足は前へと進んでいく。
 目の前に聳え立つ巨大な敵に向かい。その足は怯む事も、恐れる事もなく進んだ。
 その光景に怪物は初めて下がった。今まで前へ出る事しかしなかった怪物が、此処に来て初めて後退したのだ。
 なのはが一歩進めば怪物が一歩下がる。その光景が目の前に展開されていた。
 ふと、なのはが歩みを止めた。怪物のほんの数メートル手前で立ち止まり、そして視線を上げた。怪物の顔を凝視するかの様にその幼い瞳を持ち上げたのだ。
 目だけじゃない。鼻が、口が、顔全てが上を向いている。凛とした顔立ちの中に芯のある強さが伺える。決して恐怖に歪んでもいないし先ほどの様に戦いの緊張で強張った顔をしていない。
 落ち着きを持っていて、それでいて強さを兼ね備えた顔だった。その顔に、その佇まいに、その雰囲気に怪物は初めて恐怖を覚えたのだ。
 今、目の前に立っているのは怪物じゃない、人だ! 人間が立っているのだ。
 だが、その人間はつい先ほど自分が蹂躙した奴等とはまるで次元が違う。強い人間だ。強い力と強い心、そして強い魂を持っている。
 怪物が咆哮を挙げた。自分の中に芽生えた恐怖を振り払うかの様に、心が押し潰されないが為の見え透いた努力とも取れる行いを怪物は行っていた。
 最早、その咆哮に脅威は微塵も感じられなかった。ただただ、恐怖に打ち震える哀れな獣にしか見えなかった。まぁ、少なくともそう見えているのはなのはだけだろうが。
 怪物が突如動き出した。
 大地を駆けて一直線になのはに向ってくる。巨大な腕を振るい放ってきた。
 その小さな体を吹き飛ばそうとする様に。自分の中に芽生えた恐怖と言う概念を払拭する為に。怪物はやけっぱちにもそれを放ったのだ。
 腕に伝わったのは殴った感触じゃなかった。人間や柔らかい物を殴った際に伝わってくる物が壊れる感触がまるで感じられない。
 感じられたのは小さな手の感触だった。小さいが、その力は凄まじい。その手に止められてる感じだ。
 怪物が手の奥を見入る。其処にはなのはが居た。確かに居た。
 だが、倒れては居ない。後退もしていない。その場に立っていた。
 片手を翳し、それだけで怪物の巨大な腕を押さえ込んでしまっていたのだ。

「もう、私には通じないよ。お前は今の私に恐怖した。もうお前の拳からはあの時みたいな強さも、力も感じられない。ただ、怖い物から逃げたが
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