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アイーダ
第三幕その二
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第三幕その二

「この父を。そうすれば」
「そうすれば?」
「薫る森林も爽やかな谷間を見ることもできるぞ」
「森も谷も」
「そうだ」
 娘に強い声でまた言う。
「あの黄金色の神殿もな」
「私達の神々が座すあの神殿が」
「もう一度見たいだろう?」
 娘の顔をじっと見る。それで言うのだった。まるで娘をそこに導くかのように。
「森も谷も神殿も」
「ええ」
 アイーダはその言葉にこくりと頷いた。
「必ずや。夢に何度見たことか」
「ではわかる筈だ」
 アモナスロはさらに娘に告げる。
「御前ができることを」
「それは一体」
「そして思い出すのだ」
 また言ってきた。
「エジプトの者達が何をしたのかを」
「エジプトが」
「そうだ」
 父の顔から王の顔になった。意識していなくともそうなっていた。彼は父であり王でもある。そうした存在なのである。だから当然であった。
「我等の家々も神殿も壊し尽くしたな」
「はい」
 王の言葉にこくりと頷く。それは事実だった。エジプト軍との戦いの中でエチオピアの領土も荒れ果てた。その時に父とはぐれたアイーダもさらわれ奴隷にされたのである。それを忘れたことも一日たりともない。
「女をさらい母も子も老人も殺した」
「覚えています」
 アイーダは沈痛な声で答えた。
「全てを」
「だからだ」
 王としてアイーダに告げる。
「我々は勝たなければならん」
「エジプトに。けれど」
「ラダメスを忘れられぬのか?」
「いえ、それは」
 言葉を詰まらせる。しかしそれは真実だ。アイーダは自分に対しても他人に対しても嘘をつくのが得意ではない。だから言葉を詰まらせてしまったのだ。
「そうです」
 それを自分でも認めた。
「ですがそれでも」
「勝利の方法はある」
 アムナスロは言う。
「それも誰もが傷つかぬものじゃ」
「それは一体」
「間道だ」
 王はエジプト軍の通る道を述べてきた。
「今まで何故負けたのか、エジプト軍の動きを読めなかったのだ」
「動きを」
「そうだ。だからこそ彼等の通る道を知りたいのだ」
 そうアイーダに述べる。
「どの間道なのかな。わかるな」
「ええ」
 その言葉にこくりと頷いた。
「けれどそれは」
「見つけることはできる」
 アモナスロはそうアイーダに告げる。目の光が鋭く、強いものになる。その目はやはり王のものであった。父のものは消え去ってしまっていた。
「それはどうやって」
「わしは鍵を持っている」
 アイーダを見据えて言う。
「それは御前だ」
「私が・・・・・・」
「そうだ」
 また言うのだった。
「あの男、ラダメス」
 アイーダが愛している相手。その男の名をまた口に出してアイーダに聞かせる。
「あの男がエジプ
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