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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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皇紀五百六十八年 六月十四日 午前第十刻
辺境姫領都モルトーク 東方辺境領鎮定軍本営官舎 講堂


 緑色・黒色の軍服を身に纏った男達が会話を弾ませながら目前の演壇に目を向けている。皮肉な話ではあるが彼らが期待の色を浮かべた視線を向けている先の演壇は五ヶ月前に、守原大将が彼らを打ち倒すべく天狼にて決戦を行う旨を発した場所である。
 講堂の扉が開き、簡素ながら機能美を感じさせる緑色の軍服に身を包んだ戦姫が演台へと向かう。彼女こそが北領を征した常勝の戦姫、彼らが属する東方辺境鎮定軍の総司令官であるユーリア〈帝国〉陸軍元帥だ。

 先程まで互いに戦友と会話を交わしていた彼女の麾下にある将校達が立ち上がって出迎えると戦姫も彼らに優美な答礼を返して楽にするようにと手で示し、そして口を開いた。

「年初の鎮定作戦において我らは、諸卿らの知るとおり、皇帝陛下の御稜威がこの地に遍く及んだ事をこの〈大協約〉世界に知らしめた」
 そして、世界最強と名高い〈帝国〉を統べる一族に相応しい堂々とした笑みを浮かべ、戦姫は肩をすくめた。
「だが此の地の蛮族共にはそれが分からない様だ」
 勇士達の笑いがさざ波のように講堂に満ち、やがて静まった。
「故に我らは、今度の攻勢に際しては奴らの蛮都をも征してやらねばならない!
それこそが〈帝国〉の藩屏たる我らの義務である!蛮族共を偉大なる皇帝の名の下に征するのだ!」
 ユーリアが声を張り上げるとそれに応えた将校達の快哉が講堂を満たす。その戦意に煽られたのか僅かに上気させながらユーリアが信厚き参謀長であるメレンティンへ頷く。
 余韻を残しながらも皆が静まるのを見てとったメレンティン准将が前に出る。
「我々は新たな征戦に臨む事になる。我等が辺境領姫・ユーリア元帥殿下はその第一歩となる本作戦に、有難くも作戦名を下賜なされた――本作戦は〈アレクサンドロス〉作戦と呼称される」

 戦姫が初代皇帝の名を賭けて臨む。メレンティンの静かな声とその内容は張りつめた静寂を齎した――が、その静寂は扉が開かれる音によって打ち破られた。
 将校達が視線を向けると西方諸侯領の者らしき黒色の軍衣纏った者が立っている。無作法なその男へ将校達が刺すような視線を向けるが当の本人は物怖じと云う言葉を知らぬと講堂の中を睥睨しながら闊達な歩調で戦姫へ真っ直ぐと歩む。

「――貴官は?」
 忠良な参謀長がさり気なく美姫の前に立ち尋ねる。
「〈帝国〉陸軍第一教導竜兵団 団長のヘルマン・レイター・ファルケ大佐であります。
ユーリア元帥殿下の御下命に従い只今、参着仕りました」
 将校達の視線が途端に胡散臭げなものになる。だがそれらを一顧だにせず彼らの総司令官が微笑を浮かべた。
「重畳である、大佐。これで主役が揃ったようだ。
さあ、参謀長。それ
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