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変人だらけの武偵高
2話
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ワイヤーを巻き直しながら、キンジは這々の体で駐輪場に辿り着いた。今日は皆が皆バス登校らしく、そもそも絶対数の少ない駐輪場の自転車は、見たところその全てが今日は出番がないようだった。
新学期初日からアクション映画のような真似をする羽目になるとは、つくづく運がない。
元々探偵から派生して出来たのが武偵という仕事であり、その性質上あまり日常生活で派手なことはするべきではないのだが、悪質なストーカーから逃げるためとあらば仕方あるまい。
だからそう、玄関先の手摺りからワイヤーを使って一気に一階まで飛び降りたりするのも、仕方ないことなのだ。キンジはそう自己完結させながら、自転車の鍵を開けた。
普段はバスで登校するのだが、白雪の追跡を恐れ、とある事情により壊れていたが、丁度修理から帰ってきたばかりの自転車での登校を決める。それなりに飛ばせば遅刻は免れるだろう。
「よっ、と……おお、漕ぎやすいな」
修理ついでに改良を施してくれたのか、今までよりスムーズに足が動く。修理を依頼した悪友たちに感謝しながら、キンジは始業式の始まる武偵高へと急いだ。
ここ、東京武偵高はレインボーブリッジ南に浮かぶ人工浮島にある。学園島とも呼ばれたりする、二キロ×五百メートルという広大な敷地を持った学園である。
海際なだけあって人工浮島の風は強く、自転車で走るとそれがより一層感じられる。流れて行く景色を楽しみながら、平坦な道をすいすいと進んでいく。
キンジはお気に入りの銀時計に視線を落とす。昔兄に買ってもらった、ちょっとした思い出の品だ。普段彼は肌身離さず付けているが、これも彼のジンクスの一つ。
時計の針は、始業式までの猶予がたっぷりあることを示していた。バスに乗り遅れたのと、白雪に付き纏われていたのは災難だったものの、この分なら十分余裕を持って始業式に臨めるだろう。
ーーと。
自分の自転車とは違う、タイヤの走る音が重なって聞こえてくる。
(なんだ、俺以外にも自転車通学か?)
珍しい、と自分を棚に上げて思う。
学園島内のバスは、学生証を見せれば無料で利用出来る。わざわざ自転車に乗って通学するメリットは無い(一部の風を感じたいらしい馬鹿はよくバイクで登校しているが)。
さては自分と同じ遅刻常習犯か。どれ、顔を見てやろうとキンジは、速度を上げて並走してきたその姿をちらりと見た。
タイヤの付いた黒い台座から支柱が伸び、その先にハンドルというか、取ってのついた乗り物。キンジの想像とは違ったが、その乗り物の名前は知らなくはなかった。
「セグウェイ、か……でも、なんで無人?」
不審がり、もう少ししっかり見てやったところで、キンジは息を呑んだ。
ペダルを踏む足に、自然と力が入る。
「冗談じゃ、ねぇぞッ!」
無人のセグウェイは、キンジの淡い期待を裏切り彼の追跡を始めたーー台
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