暁 〜小説投稿サイト〜
おいでませ魍魎盒飯店
Episode 3 デリバリー始めました
北京ダックつくるよ!
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を手で触らない事である。

 だが……
「触るなといわれると触りたくなるよニャ」
 猫とは好奇心の強い生き物である。
「だよにゃぁ。 なんか甘い香りもするし、ちょっとだけなら……ヒッ」
 そこで彼等はキシリアの冷たい視線に気づいた。

「好奇心、猫を殺すってなぁ……墓標には何と刻んでほしい?」
 その手に、いつもの銀色のハエ叩きが握られていたことは言うまでもない。


*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*☆*★*


「……急々如律令、乾!」
 キシリアの甲高い声と共に、巨大なテンチャーの体から一気に湯気が湧き上がる。
 ただし、あくまでも水を抜いただけであり、決して沸騰してはいない。
 本来はこれだけでも数時間……いや、テンチャーの巨体を考えれば一日ぐらいはかかりそうな作業なのだが、理力を使えばほんの数分で全てが終わる。
 この点について、キシリアは何度感謝しても感謝しきれない。

「さて、今は俺の理力でさっさと乾かしたが、実際には表面の色が今と同じ色に変わるまで干す必要がある。 そして、乾かすときには中のエキスが漏れないようにお尻に栓をしろ。 それが終わったら、小屋の外に出るんだ。 いよいよ焼きに入る」
 ケットシーたちにそう告げると、キシリアは作業台の下に設えた竈に火をつけた。
 そして本来のレシピには無い工夫として、焚き火の中に香りの高い香木を放り込む。
 キシリアが選んだのは、桜。
 燻製にも使われるこの薫り高い材木は、北京ダックに香りという更なる味わいを添えてくれるだろう。

「いいか、満遍なく火を通すためには何度も位置を変えながら火を入れる必要がある。 アヒルなら15分ごとに3〜4度ほど位置を変える事になるが、なにせこいつはこの図体だ。 火を弱火にする必要もあるし、焼き時間も倍以上の時間がかかるだろう。 できれば魔術か理力で焼くことをお勧めする」
 その言葉と共にキシリアは閉鎖された作業台の小屋全体に理力を通し、空間自体を加熱した。 

「はふぅぅぅぅ……いい匂いだにゃあぁぁぁぁぁ」
「たまらんニャー よでぃやれぎゃあひゅれてひょひゅうぎゃりぇきゅいにゃい(涎が溢れて呼吸が出来ない)」
 ポメの口から滝のような涎が溢れる。
 横を見れば、テリアもほとんど同じような状態だ。
 目を閉じて、顔を作業小屋から漏れた煙にむかって突き出し、幸せそうにその香りを嗅いでいる。

 やがて桜チップの香りとテンチャーの肉が焼ける匂いが濃密さを増しながら交じり合い、その香りに牽かれた肉食獣たちが作業場の周囲に集まり始めた。
 彼等は物欲しそうな顔で鼻を鳴らすが、あいにくとこれは全て売り物である。

「まぁ、あとであまった臓物を鍋にでもして振舞ってやるか」
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