第二部まつりごとの季節
第三十七話 庭園は最後の刹那まで(下)
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如何に扱うべきなのか分らないのだ。
瀬川――新城家のただ一人の家令――を客人の対応に送っている為、手持ち無沙汰になってしまうとどうも同じようなことを延々と考えてしまう。
「こんなところに居たのか」
水軍名誉中佐殿と水軍中佐殿が連れ立ってやって来た 後ろでは豊久の許嫁である女性が笹嶋中佐の家族の相手をしている。
――確か名前は弓月茜――どこか幼げな顔つきではあるが、それに反した深い光を湛えた目をしている。
――成程、疚しい輩の天敵だな。
苦笑が浮かびそうになったが目があうと自然に引っ込んだ。そうさせるだけの女性だった。
「新城少佐、お久しぶりですね」
「ええ、お久しぶりです、馬堂中佐から良いお話ばかり聞かされていました。えぇ、浮いた話のない身としては羨ましいものです」
新城の後ろにいる天霧中尉に怪訝そうに視線を送り、豊久は顔を顰めながら云った。
「・・・それにしても何も持たないで隅に居るとは思わなかったぞ」
「あぁ、瀬川に客人の対応を任せていたからな。――笹嶋中佐、ようこそおいでくださいました」
「なに、こんなによいものを出していると知っていたら。軍務のあれこれがなくとも来ていたさ。
久方振りに家の者達を喜ばせる事が出来たからな」と剽げた表情を崩さずに笹嶋は嬉しそうに言った。
「そう言っていただければ料理人達も喜ぶでしょう」
「あぁ、是非伝えておいてくれ。――ああ、君にはまだ紹介してなかったな、此方が妻の松恵だ、そこに居る小さいのが息子の武雄と娘の香代だ」
細君は控え目ではあるが、柔和な印象を与える女性だった。
子供達も素知らぬ顔で武雄少年に勲章を握らせてやっている奴と違って歳相応に素直な子供だ。
――良い家族なのだろうな。
新城は心の奥底に沸いた無意味な苛立ちを無視して挨拶を交わしていると瀬川と以前見かけた馬堂家の若い使用人が盆を運びながら
「皆様、あちらが空いております」と毛氈の一角を示した。
そこへ向かう途中、笹嶋達の背を眺めながら豊久が話しかけてきた。
「あの中尉は?」
「正確には中尉相当官、兵部省の所属だ」
「――ふぅん。近衛は随分と違うのだな。お前の趣味かもしれんと思ったが」
それで確信をもったのか豊久は鼻を鳴らした。
「俺にそんな趣味はない――殿下が直々の御下知でな、本当なら断りたかったが」
「断りきれずに対処に困ってる、と。さてさて、御愁傷様と云うべきかな?お前さん、どうするつもりだい?」
「正直なところ、扱いかねている」
その言葉に蜜の味がしたのか笑いを噛み殺しながら軽口を飛ばした。
「天網恢恢疎にして漏らさず、だな。ざま見ろ」
「・・・・・・」
一方が楽しそうにしているともう片方が憮然とする法則がこの二十年の付き合いで確立された気がする。
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