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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十七話 庭園は最後の刹那まで(下)
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皇紀五百六十八年 五月十九日 第十三刻 駒城家上屋敷
弓月家次女 弓月茜


 ――良いところであえました、とは言えませんね。
と茜は静かに溜めていた息を吐いた。
 それに気がついたのか、くすり、と微笑って弓月家長女である芳峰紫が二人にゆっくりと歩み寄ってきた。
 幼少の頃からこの姉に関わるとろくな目に遭った記憶がない茜は珍しく無表情にそれを出迎える。
「――これは、これは、お久しぶりです、芳峰の奥方様。」
 豊久もこころなしか顔を引き攣らせながら答える。
「子爵は、本日はおいでなさっていますか?」
 紫が嫁いだ芳州子爵家である芳峰家は所謂、旧諸将家の一角であるが先代が20年前に有望な鉱山とその周辺を残して全ての領地を皇主へと返上した事で知られている。
 現在では製鉄を中心とした鉱・工業地帯の所有者となっており結構な儲けを出している。
「えぇ、今は駒城の殿様方のところですわ――私は蚊帳の外ですから先に愛する妹達の様子を拝見に参りましたの」
 扇子を口許にあてながら微笑を浮かべている姿はどこか胡散臭い。教養と理知を尊ぶ故州伯爵家に産まれ、男女問わず教養を叩きこまれているからか、彼女は夫と共に領土の工業化に少なからざる関わっていると言われている。

「矢張りここに居たのか」
 芳州子爵――芳峰雅永が合流してきた。

「こんにちは、馬堂中佐。いやはや、君も無事だったようでなによりだ」

「いえいえ、部下に恵まれただけです。閣下こそ、蓬羽の女主人やら水軍やらと随分と商売相手に恵まれていると聞いていますが?」
 豊久も安堵の笑みを浮かべて対応している。
「ははは、確かにこうなるとアスローンとの航路も危険になっていますからな。こうなると我々のような鉱山主には有りがたいものです。今では油州の方でも――」
 お互い下戸の証である黒茶を飲み交わしながら歓談にはいった。



「――それでは、其方の方でもお願いします。」
「えぇ、確かに承っておりますわ。妹の事もしっかりとお願いしますわ。」
 と紫は最後に豊久へと五寸釘を突き刺して夫妻はまた別の商談相手のところへと立ち去っていった。



同日 午前第十三刻半 駒城家上屋敷
〈皇国〉近衛少佐 新城直衛


 良いこと――なのだろうか。大傘と毛氈に飾られた庭の片隅で考えていた。
結局は僕がどう対応するか――なのだろうか。

 今、新城の横には美しい娘――に見える僕の個人副官(両性具有者)が控えている。彼女(かれ)が単なる女性ではないと知らせるのは濃紺の第一種軍装を纏っている事くらいであった。
 彼女(かれ)の名前は天霧冴香、直属の上官である実仁親王に仕えている個人副官の兄弟(しまい)であり、連絡役も兼ねて送られてきたのだが――新城には
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