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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十六話 庭宴は最後の刹那まで(上)
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下。」
 老年の衆民政治家はにこやかに二人のあいさつを受けた。
「あぁこちらこそ会えて光栄だ。私も貴官と言葉を交わしたいと思っていたんだ。
――失礼だが、どこかであったことがあるかな?」
「はい、閣下。閣下は覚えていらっしゃらなくて当然ですが」
 ――そもそも、言葉すら交わしていないし。
と内心で付け加える。
「その通りですな。閣下にお会いした頃の中佐は、私の副官のようなものでしたから」
とそう云いながら堂賀准将が背後からあらわれた。
「ほぅ、そうか。その時に」と舞潟が笑みを浮かべてうなずいた。
「閣下、挨拶が遅くなってもうしわけありません」
「構わんよ、私も豊守殿とここの若殿のところに居たのでね」と堂賀はかつての部下に笑って見せた。
「相変わらず“仕事”を楽しんでいるようだな」
「隊長殿に仕込まれましたのでね」
とかつての部下であった堂賀が豊長と笑みを交わす。
「・・・・・・なんかすみません」
「いわなくていい――それに君も大概だ」
かつての憲兵隊長の孫と、憲兵達の再就職先――警保局を司る義父が苦笑を交わすのを横目に執政代は興味深そうに駒州公の側近と情報課次長の会話に耳を澄ませていた。



 ようやく一通りのあいさつ回りをすませ、は人混みから多少は離れた卓に辿り着くと豊久は戎衣の襟元を緩め、情けない声を上げた。
「せ・・・精神的に疲れた・・・」
 よもや執政代にまで引き会わされるとは豊久も流石に予想しておらず。緊張の糸が緩むと同時に疲労感が押し寄せてくる。
「御祖父様・・・どこまで顔を広げるつもりなんだろう」
「お疲れ様です」
と茜はそっと黒茶を注いだ湯呑を差し出す。
「・・・あぁ、ありがとうございます」
 だが一息つく間もなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、御姉様に義兄様」
「あら?茜に馬堂様。お久ししゅうございます。」
 二人の視線の先に居たのは三十路前と思われる妙齢の女性とその後ろにちょこんとついている弓月碧だった。


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