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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十六話 庭宴は最後の刹那まで(上)
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皇紀五百六十八年 五月十九日 午前第十刻
馬堂家上屋敷 応接室 馬堂家嫡男 馬堂豊久


「概ね良し、といった所だ。衆民院も分かりやすい成果として歓迎しているようだ。後は君の父君が軍部の干渉を抑えてくれれば問題なく通るだろう。
もっとも、君達の陸軍が水際で防ぎきれるのならばこんな事は必要無いはずだがな」
故州伯にして内務勅任参事官である弓月由房がちくり、と嫌味言う。
 上品な鼈甲の眼鏡越しにじろり、と警察官僚上がりである事を周囲に知らしめる仕種で
若き中佐に視線を向け、言葉を継ぐ。
「正直、守原大将が彼処まで醜態を晒すとは思わなかった」
 守原英康は少なくとも佐官時代は駒州騎兵顔負けの戦果を上げており、護州軍参謀長として参加していた東州乱でも堅実にそこそこの戦果を残している。北領以前の戦績だけで評価するのならば、保守的ではあっても手堅い作戦家であり、陣頭指揮官としては果敢ですらあった。
結局のところ、あの会戦だけに限定するのならば純粋に戦争経験が不足し、組織として〈皇国〉軍が未成熟であった事が守原英康個人の資質以上の問題だったのかもしれない。馬堂豊久も単純にそれだけに限定するのならばむしろ守原英康には同情的だったかもしれない。 だがその後の処理を放棄して逃げだしたことについては酷く恨んでいた――特に面倒極まりない近衛旅団への処置を放置していた事については。
「挙句に君が行方不明になった時には何処で休めば良いのか分からなんだ。
屋敷に戻っても休めなくなったからな――碧までも慰める方に回ったほどには大変だった」
 義父の攻撃に北領の英雄は尻込みしながら冷や汗を流した。
「そ、それについては、その、誠に申し訳なく思っておりますが・・・・・・」
「ならばもう少し、相手をしてやってくれ。あれもお前を――うむ、なんだ、親しく思っているからな」
 義父予定の伯爵が発した咳払いまじりの言葉に豊久は頬を掻きながら首肯した。
「はい、その為にもさっさと<帝国>にはお帰り願いたいのですがね」
 軍人である限り否応なしに公私関わらず、ついて回る問題だった。
「次回の侵攻は夏か秋だそうだな。どうするつもりかね?」
「人も船も頭数が違いすぎますから、陸軍で対処することになるかと〈帝国〉にとってはただ河岸を変えた恒例行事なのでしょうが、我らは、国家の総力をあげて望まねばなりますまい。
それに――連中が衆民達に行う乱痴気騒ぎは姫将軍殿下の御尊顔の様に見目麗しい物ではありませんから」
 豪奢で艶やかな姫殿下を思い出す、こと外見だけで判断するのならば
誰もあんな悲惨な光景を生み出したと信じないだろうが――。
じくり、ととうに癒えた筈の額が疼いた。
 ――――――――――あの姫様もあの光景も二度と見たくないな。

「――あぁ。その為に我々は
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