暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
偽善の持つ優しさ
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
つけていた。少し距離があるために顔までは判断できないが、かなり必死に壁を殴りつけているようだ。

 このSAOに存在する物質(オブジェクト)には、大きく分けて二つのカテゴリが存在する。即ち、“破壊可能か否か”だ。前者はプレイヤーの武器・防具類などが、後者はこの世界に最初から配置されている木や建物などがそうだ。そして、この庭を囲んでいる岸壁は恐らく後者、いわゆる《破壊不能オブジェクト》に分類されるはずだ。つまり、黒コートの彼がしている行為は、全くの無駄ということになる。――尤も、もしあの岸壁が破壊可能だったからといって、他人の家の壁を壊すことに何らかの意味が存在するとは、到底思えないが。
 そんなことをトウマが考えているとは知るはずもなく、数メートル先の少年は必死に壁に拳をたたきつけている。あまり寝ていないのか、体の動きにどこかキレがなく、微妙に視認できる線の細い輪郭には疲れが滲んでいる。

(……あれ? もしかして……?)

 ここで、トウマの頭に一つの疑問がよぎった。今まで以上に彼に注目する。すると、その疑問はだんだんと濃さを増していき、やがて確信へと変わる。

「ひょっとして……「キリトか?」うわっ!?」

 恐る恐る、と形容するのが妥当であろうトウマの質問はしかし、突如割り込んだ相方のそれによって、意味を成さない素っ頓狂な声に変換された。抗議の意味を込めてマサキを一瞥するが、彼は左手を挙げつつ視線を投げ、サラリと受け流す。すると、トウマの耳に聞き覚えのある声が響いた。

「マサキ? それにトウマ?」

 マサキに視線を注いでいたトウマは、疑問系で投げかけられたその言葉に、慌てて振り返る。するとそこにあったのは、予想通りの人物の姿だった。

 露になった中性的な顔立ちを見て、トウマは体が強張るのを感じた。自分がβテスターであることを見抜かれてしまわないか、という不安がこみ上げてくる。
 ――でも、大丈夫。
 トウマは一度深呼吸し、心を落ち着けた。数日前までの自分だったら、何とかしてこの場から逃げ出そうと考えていただろうが、今は違う。自らの秘密を理解してくれた、マサキという存在が、トウマに自信を与えていた。
 トウマはもう一度息を吐き出し、彼の行動についての素朴な疑問をぶつけようとする。
 が、しかし。

「ふ、二人とも、さっさと逃げないと――!」

 青ざめた表情のキリトから発せられた警告と、突然瞬いた剣閃にも似た光が、その疑問が言葉に変換されるのを邪魔した。驚いたトウマが振り向くと、ついさっきまで何やら喋っていたはずの中年男性NPCが、のっしのっしと小屋の中に帰って行く。

(……あ、ヤバい。クエスト内容聞き逃した)

 予想外の人物との遭遇によって忘却の彼方へと追いやられていた目的が、今更な
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ