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清教徒
第二幕その五
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第二幕その五

「愛のみでここまで来たが。それのみであの方を裏切ったことが許されるだろうか。いや、そんなことは有り得ない」
 深い自責の念が彼の心を襲う。
「許される筈がない。彼女に会う資格なぞ私にはありはしないのだ」
 だがここでテラスに影が現われた。アルトゥーロはそれを見てまた身を隠した。エルヴィーラであった。
「あの方が」
「アルトゥーロ様」
「私のことを」
 彼はそれを聞いてハッとした。
「貴方は今何処におられるのでしょうか。私の愛しい貴方は」
「私のことを」
 それを聞いて驚きの声を漏らした。だがそれは心の中でであり決して外に漏れることはなかった。
「おいで下さい、私の側へ。そして婚礼を」
「だが私には」
 心のその言葉が深く突き刺さる。だがそれでも彼は動けなかった。
「行くべきか」
「おいで下さい」
 それを聞いて足が一瞬動きかけた。だがすぐに止めた。
「いけない」
「是非私の側に」
 そこでまたエルヴィーラの声が聞こえてきた。
「おいで下さい」
「駄目だ」
 だが心は次第に抑えられなくなってきていた。
「是非共」
「いけない」
「私の側に」
「うう」
 心が揺らいだ。そしてそれに逆らえなくなってきていた。遂に彼は出てしまった。
「エルヴィーラ」
 彼はテラスの下に姿を現わして彼女の名を呼んだ。
「私をお許し下さい」
「その声は」
 エルヴィーラはそれを聞いてハッとした。テラスの下を見ればそこに彼がいた。
「アルトゥーロ様」
 そしてそれを見て我に返ったのであった。
「貴方なのですか?」
「はい」
 彼は頷いて答えた。
「本当ですのね!?本当に貴方ですのね」
「どうして私でないと仰るのですか」
「いえ」
 それに首を横に振った。
「まさかそのようなことが」
「そうでしょう」
 彼はそれに応えた。
「私の苦しみが急に薄れていく」
「私は貴女に謝罪しなくてはなりません」
「どうしてですか?」
 エルヴィーラはそれを聞いて逆に問うてきた。
「どうして貴方が私に謝罪しなくてはならないのですか?」
「私はあの時貴女の側から消えました」
 彼はそう答えた。
「そのせいで貴女を苦しめてしまいました。申し訳ありませんでした」
「いいのです」
 だがエルヴィーラはそれに対して微笑んでそう答えた。
「いいとは」
「私は貴方が今ここにおられるだけでいいのです。私に会いにここまで来られたのでしょう?」
「はい」
 彼はそれを認めた。
「それで私の苦しみと悲しみは終わりました。貴方が来られたおかげで」
「エルヴィーラ・・・・・・」
「アルトゥーロ様」
 エルヴィーラはまた彼の名を呼んだ。
「何でしょうか」
「これで私達は永遠に一緒ですね」
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