暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
SAO編
one day 生命の碑にて
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 夕日が、沈んでいく。
 赤い世界が徐々にその色を失っていく。

 違和感を感じる。
 風の音が、やけに聞こえないのか。

 それだけじゃない。音、色、気温、匂いにいたるまで、何もかもが希薄に感じる。世界が薄くなる。色褪せる。そんな特殊な、異常な状態が実際に存在することを、俺は身を以て知ることになった。できれば一生知りたくなかった感覚だ。

 眼前に聳え立つ、黒き城…黒鉄宮。

 光を失った世界。
 その世界にふさわしい極彩色の宮殿は、まるで俺の心を映すようだった。

 真っ黒に塗りつぶされた心。
 消せない空虚。尽きない後悔。

 俺はそんな心を抱えたまま、音のない風の中佇んでいた。

 ―――アインクラッド、第一層。
 『生命の碑』の前に。





 「奇遇だね、シド君」

 ヒースクリフのその声がかかったシドが、ゆっくりとその顔を上げた。その顔に宿る表情は、プレイヤーを超越した権限を有するヒースクリフですらも、見たことのない…如何様にも表現することのできない色が浮かんでいる。

 「……ヒースクリフ…」
 「直接会うのは、四十七層以来かな?」

 応えた声は、その存在の希薄さと同様に、消えそうなほどに細い。『旋風』と謳われ、アインクラッド最速の戦士の一人と呼ぶに相応しい力を誇った青年とは思えないほど弱弱しい声は、彼の心の摩耗具合を如実に感じさせた。

 『攻略組』は、常に死と隣り合わせだ。
 層が進むにつれて死者の数は減ってきてはいるものの、それは決してゼロにはならない。

 無論『攻略組』として彼らも覚悟はしている。
 自らがその死に呑まれることを。
 あるいは、肩を並べた戦友が斃れることを。

 彼とて『攻略組』に近かった存在、その覚悟も例外ではなかったはず。しかし。

 (…その覚悟が足りるかどうかは、別の問題か…)

 思えばヒースクリフから見て、このシドという男は「『攻略組』の裏方」を自称しながらもその実ともすれば最前線よりも危険が伴うような場所を探索し続けていた。もともと死を恐れない…あるいは死に対する恐怖が鈍いタチだったのか。そして。

 (それ故に、「死ぬ覚悟」はあっても「死なれる覚悟」はなかったのか…)

 悲しき眼をした青年を、ヒースクリフはまっすぐに見つめる。
 瞳の色は、カラーリングにあったかと疑うような深く、冷たい黒が渦巻いている。

 「……」

 沈黙のまま、シドは目線を逸らした。
 ヒースクリフが、小さく…誰にも気づかれないほどに小さく、目を伏せる。

 ―――強き『プレイヤー』の離脱を予感しながら。





 「奇遇だね、シド君」

 ヒースクリフは、俺を難なく視認して声をかけてきた
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