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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第九話「魔精霊は顎」
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「……」


「相手は魔精霊、それも狂乱している。無茶なのは君も承知しているだろう?」


「……千載一遇のチャンスなのよ」


 唇をきゅっと髪、思いつめた表情で呟く。


「〈精霊の森〉であれほどの精霊と遭遇することなんてまずないわ。それに、過去に魔精霊と契約を交わした精霊使いもいなかったわけじゃない」


「グレイワースの婆さんか?あの人は例外だ」


「あたしも素質があるかもしれないわ」


「だとしても、今の君では確実に失敗するだろう。それも死に至る」


 クレアは俺をキッと睨みつけた。


「アンタにあたしの何がわかるのよ! あたしが強い精霊を求める理由、言ったでしょ?」


「ああ、聞いた。君が《精霊剣舞際》に出場しなければならないことも、現段階でチームメイトがまだ一人もいないことも承知している」


 そう言うと、クレアは驚愕で目を見張った。


「どうして――」


「知っているか、か? 見れば分かる。教室では君に近づこうとする者は極一部を除いて誰もいない。リンスレットとは犬猿の仲だからチームに入ることはまず無理だろう。お互いプライドが高いからな」


《精霊剣舞祭》は団体戦だ。五人集まらなければエントリーも出来ない。まだ一人もチームメイトがいない現状を鑑みれば、焦るのも仕方のないことだが。


「君にはスカーレットがいるじゃないか。それとも君の契約精霊になにか不満でも?」


「うるさいわねっ、不満なんてないわよ! でも、あたしには強い精霊が必要なのよ! あたしから封印精霊を横取りしたアンタにとやかく言う資格があるの?」


 痛いところを突かれ口を噤む。クレアはばつが悪そうに、ふいっと目を逸らした。


「とにかく、あれはあたし一人でやるわ。あんたたちは逃げなさい」


「クレア・ルージュ、君は――」


「エリス、あんたは皆を守ってやって。考えたくないけど、もしあたしが――」


 クレアはその先を口にしなかった。


「――スカーレット!」


 相棒の契約精霊の名を呼び、森を食い散らかす魔精霊に向かって駆け出した。


「クレア!」


 慌てて手を伸ばすが、すでにクレアは魔精霊の元に向かっていた。


 魔精霊が咆哮し、衝撃の塊を叩きつける。辺りの木々が根こそぎ吹き飛んだ。


「くっ、――一重二重と重なり我が身を守れ、彼の者我を討つことあたわず!〈多重障壁〉展開!」


「風よ、我らに加護の手を――風絶障壁!」


 エリスが張った障壁の上から俺の障壁を被せ、背後にいた全員を守る。


 吹き付ける風から身を守りながら、クレアの姿を目で追った。
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