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巫哉

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 日の光もささず、時の流れもない感覚。自らを形どる体の感覚さえ忘れそうなどろりとした安寧と虚無を漂うことが、すなわち『彼』にとっては眠るということだった。



 ヒトの形をとってその歴史を見守ることが『彼』にとっての起きていると同義ならば、この経てきた4000年は圧倒的に眠っていることが多かった。



 その、ながいながい4000年の中の今より瞬きするようなほんの少し前、『彼』は日紅に見つかった。



 そう、まさしく見つかったというのがしっくりくる出会いだった。




















 『彼』はその時眠っていた。いつものようにゆらゆらと波間を漂うような感覚に身を任せていたら、なんといきなり自分ではないものに鼻と呼ばれる部分を挟まれた。



『!?』



 『彼』の意識は一瞬で覚醒した。



 眠っている『彼』に触るなど、この世の何にもできる訳がないのだ。眠っている時は『彼』の実体も霞のように何にも見えないはずで…ましてや触るなどできようはずがない。けれど目を開けた『彼』は再び驚いた。



 目の前で『彼』の鼻を掴んで目を丸くしているのはなんと、人間の幼子だった。格のある神ならまだしも、人間が意図的に姿を消し、しかも眠っている『彼』を見つけるとは!



 さっと視たが、妖(あやかし)の類でも、物凄い霊力を持っているわけでも、守護霊の霊力(ちから)が強大というわけでもない。本当に、ただの人間の小娘だった。尚更解(なおさらげ)せない。何が起こった?『彼』は一瞬、自らがただのヒトに成り下がったような気さえした。



「ねんね?」



 幼子はくりくりした目を動かして、(つたな)くそう言った。



 寝ているのかと尋ねているのだろうということはわかったが、『彼』は返事ができなかった。



「ここねー、さむいよ。かぜ、ひいちゃうよ」



 そう言うと幼子は鼻水をすする真似をした。



『風邪なんかひくかよ』



 『彼』はようやくそう言ったが、自分でも間の抜けている返事だと思った。



 しかし幼子はそれに対して何も反応しない。ただぱちぱちと目を(しばた)かせながら見ているだけだ。



『つーかいい加減手離せくそガキ頭から喰うぞ』



 そう言ってもやはり何の反応もなかった。手も離そうとしない。このくらいのヒトの子なら怯えて泣くものだが…そう考えた時にやっと『彼』は気がついた。声を出していなかった。ヒトは口から声を出し、顔の横についている耳というもので音を聞きとるのだった。



「―…あー…あ…声、これで聞こえるか?」
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