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『彼』とおまえとおれと

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とは言った…」



はーと姉はため息をついた。



「いい?ちゃんと、あんたの口から言いなさいよ?それが誠意ってやつなんだから」



「お姉ちゃん巫哉は別にあたしの事なんとも思ってないよ」



「うるさい。いいから言う通りにしなさい」



 むすりと黙った日紅を横目で見て、姉ははぁとまたため息をついて、その頭にぽんと手をおいた。



「まぁ、本人がなにも言ってないのにわたしがあれこれ言うことじゃないかもしれないけど。知らないってことが免罪符にならないこともあるし、日紅に後悔してほしくないからさ」



「…意味わかんない。……お姉ちゃんなんて、巫哉のことなんにも知らない癖に」



「そりゃあね。でも話聞いてる限り…ま、いっか。ほら、着替えてきな」



 ぽんと日紅の背中を押して姉は台所に行ってしまった。



 日紅はそのまま玄関で立ち尽くしていた。



 ぐるぐると色々な思いが頭を回る。



 お姉ちゃん。巫哉。桜ちゃん。犀。青山くん。



 …巫哉。



 巫哉にあいたい。巫哉にあってまたあの生意気そうな顔で、どうしたんだと、優しくって意地っ張りな巫哉にそう言ってもらったら、安心できる気がする。巫哉は日紅を裏切らない。巫哉だけは。



 だって、『彼』は変わらないから。犀は常に前を向き進んでゆく。日紅だって変わる決心をした。でも、それに恐れや不安がないわけでは、決してない。変化は怖い。それに付随する終わりが怖い。始まりと終わりはひとつだ。切り離して考えられるものではない。だから日紅は恐れる。変化を。



 だから日紅は求める。『彼』を。



 会ったら、巫哉に抱きついて、慌てる顔を見て、それを指さして笑って。



 日紅は2階に続く階段を駆け上がった。はやく、はやく。一瞬犀の顔がよぎったが、日紅の心にある大きな不安には勝てなかった。犀も、姉も、巫哉のことを気にするのがわからない。巫哉は日紅にとって男だとか女だとか、そんなもので区切れるものではないのだ。4000年以上を生きる人外のものという認識ですらない。巫哉は巫哉。たったひとり、日紅にとってかけがえのない相手なのだ。



 勢いよく日紅は部屋の窓を開けた。



「巫哉!」



 しかし窓の外に求める『彼』の姿はなかった。でも、日紅の声を聞けば出てきてくれるはずだ。



 はやく会いたい。はやくー…日紅の気ばかり()ぐ。



 暫く待った。



 日紅はそこできょとんとした。巫哉がいない。そんなことはないはずだ。今まで、一度たりともそんなことはなかったのだから。


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