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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第50話 吸血姫
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、異様な気配を感じた。

 そう。まるで底の見えない、深い闇を湛えた地の底を垣間見たような……。

「どうです、忍さん。僕の所に来ませんか。悪いようにはしませんよ」

 突如、俺の耳元に響くソルジーヴィオの囁き声。
 そう。何時の間にか、遙か高見から俺たちを睥睨していたはずのソルジーヴィオが、俺とタバサの傍ら……。俺の左側にまで、その身を移動させていたのだ。
 その言葉は甘く、甘く、そして、淫靡。
 更に、ゆっくりと。まるで、友達を遊びに連れ出そうとするかのような気軽な雰囲気で右手を差し出して来るソルジーヴィオ。

 彼の右手を取れば、すべての苦痛より解放される。そんな、訳もなく、蠱惑に満ちた考えが頭を過ぎって行く。

 但し、

「悪いが、俺には衆道を嗜むような粋な趣味はないのでな」

 意志の力を杖に、自らの右側に立つ少女に勇気を貰い、その差し出された右手を払おうとする俺。
 その瞬間……。

 魅入られている事にようやく気付いた。

 左足から何かが這い上がって来る感覚。それは、足首から脛。そして、膝。

 その瞬間、蒼き姫が、自らの支配する精霊を杖に纏わせ、右半身からすり足に因る体移動を開始。滑るような、舞う様な可憐な動きから繰り出される一閃は正に閃光。
 通常の生命体なら。いや、世に聞こえし悪鬼、羅刹の類なれども、今の彼女の敵に非ず。

 しかし! そう、しかし!

「久しぶりに、本心からヒトを欲しいと思ったのですけどね」

 相変わらず、謎の東洋的笑みを浮かべたまま、そう言うソルジーヴィオ。
 その姿は喜。そして、楽。どう考えても、死に等しい斬撃を受けた直後とは思えない。
 但し、その右手に振り抜かれる直前のタバサの魔法使いの杖が止められ、行き場の失われた爆発寸前の霊力が彼女の杖と、そして、ソルジーヴィオの右手との間で蟠っている。

 次の瞬間、その身に宿ったすべての力を失ったかのように、タバサがその場に崩れ落ち掛ける。そして、ソルジーヴィオと彼女の間に蟠っていた霊力が何処かに霧散した。
 いや、まるで何かに吸い込まれたように、消えて仕舞ったと表現する方が正しい。

 しかし!

 しかし、次の瞬間。遙か上空に退避するソルジーヴィオの右の頬から一筋の鮮血を流し、
 意識を失ったタバサを左手で抱えながら、振り抜かれた形の七星の宝刀を右手にした俺が、地上から遙か上空を見つめていた。

 左脚から未だ滴り続ける生命を司る紅き液体が、残っていた体力を急速に削って行く事を感じながら……。

「あの拘束を無理に引き剥がしましたか」

 少し呆れたような気を発するソルジーヴィオ。そして、この瞬間。初めて、この謎の青年から人間らしい反応が得られたのは間違いない。


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