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星河の覇皇
第四部第五章 英雄と梟雄その一
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 門の前に数人のメイドが来ていた。
「ただいま」
 彼女はそれに笑顔で答えた。
「ようこそ、モンサルヴァート閣下」
「うん」
 モンサルヴァートも微笑んで彼女達に応えた。どうやら顔見知りらしい。その物腰には慣れたものがあった。
 二人はメイド達に案内され屋敷の中に入った。中は何処か十九世紀のドイツの建築を思わせる。
 そして奥の部屋に入った。そこは食堂だった。
「お帰り、エルザ」
 その中央にいる口髭を生やした上品な風貌の初老の男性が彼女の姿を認めて声をかけた。
「只今、御父様」
 エルザは頭を垂れて挨拶をした。
「お邪魔しております」
 モンサルヴァートも頭を垂れた。背広なので敬礼はしない。
「ようこそ、婿殿」
 その男性は微笑んでモンサルヴァートに言った。
「婿殿とはご冗談を」
 モンサルヴァートはそれに苦笑した。
「冗談ではありませんよ、閣下」
 その男性の隣にいた気品のある老婦人が笑って彼に言った。見れば男性と同じ位の年齢だ。
「婚約してもう二十年も経っているではありませんか」
「それはそうですが」
 モンサルヴァートはその言葉に少し顔を赤くさせた。エウロパにおいては婚約についての年齢制限はない。結婚は男女共に二十歳からと定められている。従って貴族達の間ではまだ幼いうちから親達が婚約を結ぶということがよくある。所謂政略結婚である。
 実はモンサルヴァートとエルザもそうである。エルザの家も由緒ある家柄である。彼の父は伯爵の称号を持ち彼女の兄が後継者となっている。彼女の家ヴァンフリート家は芸術家の家系であり幾つかのオペラハウス等を経営している。彼女の父であり今目の前にいるヴィーラント=フォン=ヴァンフリートはオペラハウスを経営しながら作曲も手がけている。育ちのよい温厚な人物として知られている。今はバイオリン奏者でもあり演出家でもあるエルザの兄ヴォルフガングに会社の経営を任せ悠々自適の生活を送っているのだ。 
 何故軍人の家と音楽家の家が結ぶかというとモンサルヴァート家も音楽に造詣が深いからだ。モンサルヴァートの妹はピアノ奏者でありヴァンフリート家の企業からCDを出し、コンサートを開いているのだ。実はモンサルヴァートの母はソプラノ歌手であり軍人である彼の父が見初めたことから結婚となったのである。彼はたまたま婚約者が事故で死んでおり結婚することができたのだ。そうでなければとても結婚なぞできない関係だった。
「母上も貴族出身だったが」
 モンサルヴァートはその話を思い出しながら心の中で呟いた。彼の母はさる男爵家の末娘であった。だからその家との結び付きの意味でも結婚することができたのだ。
「こうした家のしがらみの中で生きるのも貴族の務めか」
 彼はそう思っていた。貴族には貴族の責務があるのだと思っていた。
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