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リリカルってなんですか?
A's編
第二十七話 裏 (はやて)
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 八神はやてにとって、一人であることは普通だった。

 寂しいという感情が、今までとの差異から起因するものだとすれば、八神はやてには、その比べるべき過去がない。もちろん、はやては独力でそこに存在しているわけではない。おそらく、彼女にも両親がいたことだろう。しかし、彼女には不思議なことにその記憶が、経験がなかった。気が付けば、彼女は一人でその家で寝起きし、食事をし、日々を過ごしていた。

 はやては、その異常ともいえる境遇を不思議に思うことはなかった。これも同様の理由だ。彼女は一人だ。学校にも行っていない。つまり、彼女の境遇を比べるべき相手がいない。よって、八神はやては、異常を普通と認識しながら淡々と日々を過ごしていた。

 八神はやてが一人でいることになんら不自由はなかったといっていいだろう。お金は、彼女の保護者ということになっているグレアムおじさんから過剰なほどに振り込まれている。はやてが、管理している通帳を見知らぬ第三者が見れば、目が飛び出るほどに驚くほどの額が記帳されている。

 食事の類は、はやてが自前で作れるのだからなんら問題はない。自分の家のキッチンだって高さが調節されているため自由自在に使うことができる。よって、車椅子に乗っている身であろうとも、なんら問題はなかった。料理のレパートリー自体はいったいどうやって覚えたのか、はやては覚えていない。気が付けば献立を考えるようになっていたし、作れるようになっていた。誰かから教わったのであろうが、彼女にはその記憶がないし、それ自体を気にすることはなかった。

 はやてにとっての世界とは、自分の家と外の限られた空間―――図書館と病院―――と彼女が大好きな本の中だった。

 本とは、小さな人生であるとは誰かが称した言葉である。人の人生は一度しかないが、本を読むことで何度でも人生を繰り返すことができるのだ、と。その意見にはやても賛成だった。本の中には、彼女の知らない世界が広がっている。はやての足を考えると行くことはできないだろう。しかし、その写真と描写からどんな世界か想像することができる。とりあえず、彼女はそれだけで満足だった。

 しかし、そんな彼女でも、本の中で、家族に対する感情は理解できなかった。理解できるための地盤がないのだから当然であろう。家族への感情へ関する部分というのは、はやては、いつも首をひねりながら淡々とそういう風に感じるんだ、と思いながら読み進めていた。

 このとき、彼女には家族に対する『興味』はあったが、家族への『羨望』はなかった。そのものの価値を知らなければ、羨むことなどないからである。

 そして、はやての認識を、価値観を一変させる出来事が、彼女の九歳の誕生日に起きる。

 六月四日、八神はやて九歳の誕生日。だが、彼女にとってはなん
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