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八条学園騒動記
第二十九話 どちらが先にその三
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「むっ」
 ギルバートがそれに反応する。しかしそれより早くスターリングと蝉玉がやって来た。
「ねえギルバート」
「ちょっと教えて欲しいところがあるんだけれど」
「むっ、何だ?」
 ギルバートは条件反射的に二人に顔を向ける。見れば二人はその手に教科書を持って来ている。
「ここなんだけれど」
「僕はここ」
 二人は彼に勉強を聞きに来たのだ。頼まれれば嫌とは言えないギルバートはそれに応えるしかなかった。
「そこはだな」
「へえ、そうだったの」
「そうなんだ。それでそこは」
「そうなるんだね」
「そうだ。要は」
「上手いわね」
 ビアンカは二人の動きを見て思わず唸った。
「ナイスフォローよ」
「あれわかってやってるんだね」
 マルコがそれに問う。
「やっぱり」
「見ればわかるじゃない」
 ビアンカは彼にこう答えた。
「タイミングよ過ぎでしょ?しかも科目は」
「ああ、成程ね」
 スターリングは生物、蝉玉は歴史である。どちらも二人の得意な科目である。聞くまでもない筈なのだ。しかし二人はそれをあえて聞いているのである。そうしたことも見れば一目瞭然であった。
「わかったわね」
「うん。あの二人もわかってるんだね」
「言い出したのは蝉玉ね」
 ビアンカはそう分析する。そしてこれは当たっているのだ。
「どちらにしろナイスよ。アンはルビーと一緒に彼をまけたし」
「気付いてないのは彼だけだね」
 セドリックが言ってきた。
「どう見ても」
「そうね」
 ビアンカはその言葉に頷く。
「まあ彼が気付くまでね」
「何時になるかな」
「さて」
 マルコの言葉へ返す言葉はあてもないものであった。
「ずっとかも」
「アンも大変だね」
「同情するわ、彼女に」
 皆も大体同じ考えである。実はアンの気持ちはクラスの大部分がわかっているのである。だが相手が気付いていないのでどうしようもないのであった。
 アンは屋上に来ていた。当然ルビーも一緒である。屋上の端に座って話をはじめた。
「全くねえ」
 ルビーが口を開いてきた。
「恋愛ものとかでも描いたら?」
「私をモデルにして?」
「ええ」
 彼女は言ってきた。
「どう、そこんとこ」
「何か怖いわ」
 俯いて述べてきた。
「そういうのって」
「怖いの」
「だってそうじゃない」
 眉を顰めさせて述べる。やはり俯いたままであった。
「ふられたりするじゃない。そんなこと思ったら」
「描けないの?そういうのも」
「何で言えないのかわかる?」
 アンは今その理由を言ってきた。
「どうしてか」
「どうしてなの?」
 ルビーはそれを聞くことにした。それで彼女に問い返してきた。
「言ってみて」
「若し私が言うわよ、好きだって」
「うん」

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