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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
chapter 04 : thriller
#36 "When the night is coming soon"
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アフガンからモスクワに戻ってきたあの頃の私には。
帰還兵(アフガンツィ)と蔑まれ、ソ連邦から新生ロシアへと移り変わりゆく時代の中に取り残されていった私には。

国家が、主義が、思想が、官僚が、国民が、 過去を否定し、消し去ろうとした。
アフガニスタンへの侵攻は愚行であり、 過去の悪夢だと。

『遊撃隊』(ヴィソトニキ)

第三一八後方撹乱旅団、第十一支隊の精鋭によって結成された我々もまた否定された。
救援を要する友軍あらば如何なる状況下でも急行し、最後の希望とまで呼ばれた我々もまた、否定された。
砂塵と血臭漂う戦場で戦い抜いた我々は否定された。
我々の苦難は讃えられる事はなかった。
我々の犠牲は悼まれる事はなかった。
我々の忠義と勇気は省みられる事はなかった。

全ては否定された。

だから私は私を否定しない。

私は私と私の部下たちを否定しない。

マフィアにまで身を落とそうとも。
過去にしがみつくだけの亡霊になろうとも。
どれだけの汚辱を身に刻まれようとも。

私と彼等はこの街で在り続ける。
何もかも無くした我々に最後に残された唯一のものを持ったまま。
いつか来る"最期の刻"のために。

「………」

逃がしはしない。
我々の前に立ち塞がるものは全て踏み潰す。
貴様が何者であろうともだ。

未だ姿を知らぬはずの襲撃犯の顔が、紫煙越しに窓に映り込んだような気がした。
どこか見知った顔のその男が本当に今回の我々の敵なのか、或いは未来の敵なのか……

まあ、どちらでも構わない。
楽しみに待つとしよう。
我々の敵が姿を表すその時を。














Side 張

また陽が沈む。
さて今夜はどうなるか……
ヨットハウスの窓から街を眺めながら心中で呟く。
眼下に街の景観を一望できるこの部屋には、いつもより多くの部下が詰めている。
迂闊な事を言えば部下にも動揺が広がるだろう。上に立つというのも中々肩の凝る事だ。

グラスを静かに口に運ぶ。
まあ、ゆっくり酒が飲めるというのはありがたい話だが。

報告じゃあ、かなり余所者が入り込んで来ているらしい。それも結構な有名どころが。
名が知れてると言う事は後ろについてる紐も見分けやすい。
そう単純に行けばいいのだが。

空いている手の親指で額を掻く。
癖というのは中々無くならないものだ。

どの組織もこの街を狙っている。
この『海賊達の桃源郷』を。

今回入り込んで来た連中の中にどれだけ "紐付き"がいるのかは分からんが、排除して回るわけにはいかん。
只でさえ殺気だってる連中の導火線に火を点けるようなものだ。
迂闊な行動
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