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戦国異伝
第三話 元服その十三
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「わかったな。わしは少なくとも食い物は独り占めはせぬ」
「だからこそ我等にもこうして」
「そうだったのですか」
「わかったら遠慮することはない」
 そしてだった。また柿の木の脇を通る。ここでだった。
「さて、もう一個食うか」
「この木の柿もですか」
「それもですか」
「そうだ、食え」
 実際にだった。吉法師は手にしているその柿を食べ終えた。そうして今横を通った木の柿を一個もぎ取った。そのうえで食べてみせてだった。
「こうしてな」
「もう一個ですか」
「我等も」
「思う存分食え。よいな」
「はい、それでは」
「御言葉に甘えまして」
「柿はいいものだ」
 吉法師は笑いながらその柿を食べている。
「甘いものはいい」
「甘いものはお好きですか」
「大好きだな」
 竹千代の問いに答えてみせる。
「柿だけでなく他の果物や菓子もだ」
「西瓜もですな」
 勘十郎は西瓜も話に出してきた。
「それも」
「うむ、いいのう」
「それは意外ですね」
 竹千代はそんな彼の好みを聞いてやはり驚いていた。目を丸くさえさせていた。
「吉法師殿が甘いものをお好きだとは」
「そこまで意外か」
「ううむ、想像できません」
「だから言っておるのだ。人はそうそうわからん」
 またこう言うのであった。
「中々わかりはしないぞ」
「そのこと、よくわかりました」
「さて、それではだ」
 ここまで話してだった。吉法師達は川のところに来た。
 そうしてその前に来て。彼は勘十郎と竹千代に対して述べた。
「泳ぐぞ」
「はい、それでは」
「そうしましょう」
 もう寒くなろうとしているがそれでも泳ぐ彼等だった。そしてこの時から暫くしてだ。吉法師は父信秀からこう告げられたのだった。
「そなたもそろそろだ」
「そろそろとは」
「元服してもらおう」
 こう告げられたのである。
「それでよいな」
「元服ですか」
「左様、名前はそうだな」
 ここでだ。信秀は我が子にまずこう告げた。
「織田家ではまず信という文字をつける」
「はい」
「まずはこの文字を使う」
 織田家の文字をだ。使うと告げた。
 そしてそのうえでだ。また吉法師に対して告げた。
「そしてだ」
「その次には」
「沢彦和尚から聞いた。名前は信長がいいとな」
「信長ですか」
「そうだ、織田信長」
 この名前がだ。今吉法師に告げられた。
「それがそなたの名前だ」
「織田信長ですか」
「どうだ。気に入ったか?」
 信秀はその厳しい顔を微笑まさせていた。そのうえで我が子に問うた。
「この名前は」
「いい名です。この名前ならばです」
「この名前なら。どうなのだ?」
「天下に轟かせるに相応しい」
 これが信長としてのはじめての言葉だった。

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