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邪教、引き継ぎます
第一章
8.悪魔神官の杖
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「ふむ? この杖が気になるのか?」
「あっ、申し訳ありません。ジロジロ見てしまって大変失礼いたしました」
「よい。何事も興味を持つのは大切なことだ。これはハーゴン様より譲り受けたもの。いかずちの杖という名が付いている」
「名前があるのですか」
「そうだ。世界に一本しかない。おそらく性能もハーゴン様の杖より上だろう」
「これも失礼で申し訳ありませんが、ハーゴン様はご自身でお使いにはならなかったのですね?」
「あのおかたは異世界との取引により、人智をはるかに超えた肉体と魔力をお持ちだ。杖など何を使っても同じ――そうお考えであり、それが事実だ」
「……」
「この杖は自分には過ぎたものかもしれぬ。しかし他の何者でもなく(わし)に渡された以上、儂はそれに応えなければならない」



 − − −



 現れたローレシア新国王は、岩から飛び降りた。
 先ほどのバーサーカーの少女とは異なり、躍動感を見せつけるような大きな跳躍ではない。
 だがその無駄が削ぎ落とされた一動作は、強い威圧感をフォルのところまで届けた。

「な、なぜ、ここに」

 門番を務めていたデビルロードの断末魔。
 次々に聞こえ、そして徐々に近づいてくる、悲鳴。
 迎え撃つべく部屋を出て行く悪魔神官ハゼリオの背中。

 フォルの人生そのものであった大神殿での毎日。
 幸せな暮らしが全て崩れ去っていく記憶が、瞬時によみがえった。

 驚愕に、恐怖に、悲哀に、望郷に。
 いろいろな感情が一気に押し寄せ固まってしまったフォルとは対照的に、アークデーモンとバーサーカーの二人は、その人間が誰なのかすら気づいていなかったようだった。

「また人間か」
「信者じゃねーよな。誰だ?」
「あっ、危ないです! この人は――」

 無防備に近づこうという両者の動きを見て、フォルは我に返った。慌てて声をかける。
 しかしローレシア王本人は、フォルの説明を待たず自分から名乗った。

「俺はローレシアの王子、ロス。いや、今はローレシアの王と言わなければならないかな」

 彼が背中の剣を抜く。晴天のロンダルキアで強い輝きを放った。

「な、何だって!?」
「ローレシアの王子!?」

 アークデーモンとバーサーカーにも動揺が走っている。

 ――どうするの。

 それを何度も問うてきたロンダルキアの(ほこら)の少女ミグアは、今この場にいない。
 しかしフォルの頭の中では、その言葉が彼女の声で聞こえてきた。

 相手は、悪魔神官ハゼリオ、アトラス、バズズ、ベリアル、大神官ハーゴン、そして召喚された破壊神シドーすらも手にかけた人物。
 今ここにいる者だけではおそらく戦えない。二人には逃げてもらわなければならないが……。


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