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木彫りで
第一章
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       木彫りで
 徳川家康の家臣達は優れた者達が揃っていることで知られている、特に四天王と言われている者達はだ。
 その中でも特に優れている、それで家康も誇りに思っていた。
「わしは果報者じゃ」
「我等が家臣だからですか」
「それで、ですか」
「そうじゃ、お主達がいてくれてじゃ」
 四天王と共に飲みつつ笑って言うのだった。
「わしは幸せ者じゃ」
「いやいや、我等こそです」
「殿が主で、です」
「どれだけ有り難いか」
「わかりませぬ」 
 四天王の四人は四人でこう言った。
「殿はいつもお優しくです」
「かつ徳を持っておられますので」
「また天下の者が言う通りに誠に律儀です」
「そうした方ですから」
「ははは、世辞は苦手じゃ」
 家康は四人に笑って返した。
「だからな」
「それはいいですか」
「世辞は」
「そうなのですか」
「うむ、わしの方こそじゃ」
 また四人に言うのだった。
「お主達が家臣でな」
「いやいや、そう言って頂けるなら」
「有り難いです」
「感無量です」
「我等の方こそ」 
 四人はそんな家康だからこそ余計に惚れ込んだ、そうして増々彼の為に働くのだった。その四人の中でもだ。
 本田平八郎忠勝は戦において無敵とさえ言われていた、その彼には太閤である天下の人たらしと知られている豊臣秀吉もだ。
 ある日家康にだ、笑いながらこんなことを言った。
「内府殿の平八郎であるが」
「あの、欲しいと言われましても」
 家康は苦笑いで応えた、以前家臣それも重臣中の重臣であった石川数正を引き抜かれているので警戒しているのだ。
「平八郎も他の者も」
「わかっておる、ただな」
「ただといいますと」
「実はあの者は木彫りが好きじゃな」
 彼の趣味のことを言うのだった。
「そうであるな」
「それが何か」
「うむ、これが意外にじゃ」
 この様にというのだ。
「わしには思えるのじゃ」
「ああ、そのことでございますか」
 家康も言われて頷いた。
「あれはあの者の昔からの趣味でありまして」
「そうであるな」
「それは太閤様も見ておられて」
「知っておったがな」 
 秀吉にしてもとだ、彼は答えた。
「わしが右府様の下におった時からな」
「はい、あの時からよくお会いして」
「飯も共に食いな」
「轡も並べられ」
「宴も共にした」
 織田家の家臣、徳川家の家臣という立場でというのだ。主で会った信長を右府即ち右大臣の官職で呼んでお互いに話した。
「そうしてな」
「ご存知ですな」
「その頃から木彫りを彫るのを見てな」
 忠勝、彼がというのだ。
「豪胆でその武勇は無双の」
「平八郎には似合わぬ」
「似合わぬ訳ではないが意外にな」 
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