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ドリトル先生と山椒魚
第七幕その二

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「ステーキなんかや」
「あまり縁がないですか」
「そやった、彼はやっぱりちゃうわ」
 太宰さんのことをこうも言うのでした。
「家はああで顔もええ、文才もある」
「やはり違いますか」
「ええお師匠さんもおったしな」
「井伏鱒二さんですね」
 太宰さんのお師匠さんと聞いてです、先生は言いました。
「そうですね」
「そや、井伏さんは太宰君のお師匠さんでな」
「ずっと太宰さんのことを気にかけておられたとか」
「そやけどな」 
 それでもというのです。
「戦争終わってからはどうもな」
「何でも疎遠になっていたとか」
「そやった、私が東京に行った時も」
 その時もというのです。
「そこで私は死んでるけどな」
「あの時ですか」
「あの時も思ったわ」
 織田作さんはホッケの後は枝豆を食べます、そのうえでお話するのでした。
「二人はどうもな」
「疎遠ですか」
「それで死んでな」
 織田作さんが東京でというのです。
「そして大阪に戻って」
「今の様にですね」
「幽霊になったけどな」 
 それでというのです。
「二年半経って太宰君が死んだ」
「玉川上水で自殺されて」
「それで太宰君の話を聞いたら」
 織田作さんは複雑なお顔になって言います、過去を思い出してそれで考えているお顔です。そのお顔で言うのです。
「やっぱりなってな」
「思われましたか」
「太宰君の遺書の話聞いてな」
「井伏さんは悪人です、ですね」
「それ聞いてな」
 それでというのです。
「やっぱりって思ったわ」
「そうですか」
「ああ、それでな」
 織田作さんは複雑なお顔のまま言います。
「私も納得したわ、納得したけどな」
「それでもですね」
「そうしたことは書かんといて欲しかった」
「悪人です、と」
「色々あったにしてもな、ただな」
 織田作さんはジュースを飲んでまた言いました。
「疎遠でも絆はな」
「ありましたね」
「そやった」 
 そうだったというのです。
「井伏さんはずっと太宰君を想ってた」
「太宰さんが世を去ってからも」
「そやった、それであの世に行った太宰君もな」
 その彼もというのです。
「わかってくれて今はな」
「あちらの世界で、ですね」
「井伏さんもあちらに行ったし」
 そうなっているというのです。
「疎遠なんもな」
「戻ってますか」
「そうなってるで」
「それは何よりですね、実は今僕は山椒魚の論文を書いていまして」
 先生は織田作さんにこのこともお話します。
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