暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
影の政府
奪還作戦 その3
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 ニューヨークは、マンハッタン島にある石油財閥の本部。
この財閥のオーナーで、チェースマンハッタン銀行の会長である男は、ニューヨークに本店があった貿易会社「アムトルグ」に電話をかけていた。
 
 「アムトルグ」とは、ソ連の対米輸出向けの貿易団体である。
1924年にソ連と関係の深いA・ハマー博士によって設立された半官半民の株式会社である。
合法的なアメリカ法人であったが、その実態はソ連の対外貿易を担う貿易省の一管理部門だった。
 1933年の米ソ国交開始までは、大使館的性格を有し、日本における対日通商代表部と同じ役割を果たした。
無論、GRUやOGPU(合同国家政治総本部、今日のKGB機関)の非合法工作員を多数抱え、米国内での諜報活動に参加した。
 1940年代に原爆スパイ団を指揮したパヴェル・スダプラトフKGB大佐は、回想録において「アムトルグ」にも原爆スパイの工作隊がいたという証言を残している。

 米ソ貿易は1920年に始まったが、ソ連ルーブルの国際的信用は一切なかった。
その為、通商関係にあった___スエーデン、リトアニア、ドイツなど___各国へは金や宝石という形での料金支配をせざるを得なかった。
 しかし、米国政府や商業界の多くはソ連の金塊を、ロマノフ王室や貴族、商人からの略奪物とみなし、受け入れなかった。
ソ連側は、代金支払いを米国ドルで建て替える必要があった。
ソ連のダイヤモンドや金塊を、米ドルに換金してくれる金融業者や銀行を探す必要があった。
 そんな時、名乗りを上げた銀行があった。
ニューヨークのマンハッタンに本店を置く、チェース・ナショナル銀行である。
同行は、ニューヨークに支店があったソ連国営貿易会社「アムトルグ」を支援し、積極的に取引した間柄であった。
 1922年、チェース・ナショナル銀行は、利潤を追求する資本家の大敵とされていた共産党(ボリシェビキ)を助けるため、米ソ商工会議所を設立した。
米ソ商工会議所の会頭は、チェース・ナショナル銀行の副頭取だった。
 そして、何より驚くべきことに1928年にソ連国債を米国で初めて取り扱ったのは、チェース・ナショナル銀行だった。
 チェース・ナショナル銀行とは、チェース・マンハッタン銀行の昔の名前である。
1955年のマンハッタン銀行との合併前の名前で、1920年代ごろから石油財閥の影響下にある銀行だった。
つまり、石油財閥はソ連建国以来の秘密の支援者の一人であったのだ。



 摩天楼の最上階にある会長室に、男の声が響く。
ビロード張りの肘掛椅子に座りながら、チェースマンハッタン銀行会長は、驚くべきことを告げた。
「ええ、支店長さん。レバノンには今より2時間ほど後に艦砲射撃を行います」
ソ連人の支店長は、男の発言を受けて、途端に狼狽
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