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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿  その3
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 混乱する市外の喧騒を余所に重武装の車列が一路ハバロフスク空港に向かう。
周囲を装甲車で固め、軍用道路を驀進(ばくしん)し、去っていく姿を市民は唯々見守っていた。

 走り去る車の中で、男達は密議を凝らしていた。
「議長、空港にはすでに大型ジェットが用意してあります。
そこよりウラジオストック経由でオハ(北樺太の都市)に落ち延びましょう…」
「アラスカの件はどうなったのかね……」
不安そうな顔をするソ連邦議長の愁眉を開かせようと、KGB長官は語り掛けた。
「議長。心配なさいますな……。我等が手の物がすでに米国議会に潜入して居ります。
我国の領土となるのも然程時間が掛かりますまい」

 車から降りた一行は、大型旅客機のイリューシン62に乗り込むべくタラップに近寄った。
その直後、唸り声をあげた自動小銃の音が響き渡る。
AKM自動小銃で武装し、茶色い夏季野戦服を着た集団が議長達一行を囲んだ。

 彼等を掻き分ける様にして深緑色のM69常勤服を着た将校が、マカロフ拳銃を片手に現れる。
「同志議長。残念ですが、この飛行機は我等GRUが使わせて頂くことになりました」
官帽を被った顔を向けると、不気味な笑みを浮かべながら口を開いた。
「5分後にはここはスペルナズの空挺コマンド部隊が襲撃する手はずになって居ります。
貴方方は日本野郎(ヤポーシキ)と共にこの場で討ち死になされる運命……」
 黒い革鞘に入ったシャーシュカ・サーベルを杖の様にして、身を預けるKGB長官。
彼の口からGRU将校に疑問を呈した。
「此処を爆破すれば、貴様も生きては帰れまい。違うか……」
将校は不敵の笑みを浮かべるばかりで、ただ拳銃を向けた手を降ろそうともしなかった。

 間もなくすると、羽虫の様な音を立てた航空機が3機、空港上空に現れた。
茶色い繋ぎ服を着て、厚い綿の入った降下帽をかぶった集団が落下傘で降下してくる。
「我々の負けの様だな……」
議長は観念したかのように呟いた。
「持って回った言い方をなされますな、同志議長。
あなた方の殺生与奪は既に我等の手の中にあるも同然です」

 60名ほどの空挺兵士達は着地をすると、姿勢を正してソ連首脳を囲む様にして駆け寄って来る。
「同志議長、核爆弾操作装置をこちらにお渡しいただけませんかっ!
言う通りにしていただければ脱出用の航空機も爆破せず、あなた方の生命も保証しましょう」
議長はKGB長官の方を振り返る。
「此処は逆らうべきではありませんな……。いう通りにしましょう」
男は不敵な笑みを浮かべる。

 議長は、トランク型の核ミサイル誘導装置をGRUの将校に手渡す。
受け取った男はひとしきり笑った後、態度を豹変させる。
「皆殺しにして、イリューシン62は我等が頂いていく」

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