暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
ソ連の落日 その3
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勤務服で足を組んで座る姿は、男がどの様な立場かを示すのには十分であった
「モスクワと件でお伺いいたしました。同志大将のお答え方によっては我等は違う道を歩まざるを得ません」
そう言うと懐中より、『マルボロ』のソフトパックを取り出す
封緘紙(ふうかんし)の糊付けを剥がすと銀紙の包装紙を開け、茶色いフィルターのタバコを抜き出す
「シュトラハヴィッツ。君がやろうとしていることがどれ程の事か分かっているのかね」
男は、彼の差し出した煙草を受け取る
「はい、ご理解いただけると思い、ご意見を(うかが)いに参りました」
火の点いた使い捨てライターを、男の手元に近づける
「その内容とは何だね」
差し出されたライターにタバコを近づけ、口に咥えながら火を点ける
男が深く紫煙を燻らせた後、次のように彼は切り出した
「東欧一の伝統と勢力を誇る組織……、嘗ての栄光も虚しくモスクワに頭が上がらぬと聞き及んでいます」
老眼鏡越しの緑色の瞳が、見開かれる
「不可侵を条件にモスクワと兄弟党の盟約を交わし合ったとされますが、現状はどうでしょうか。
社会主義の兄弟党の立場ではなく、隷属関係ではないのでしょうか。違いませんか!」

「貴様等、何が言いたいんだ」
シュトラハヴィッツ少将は目を輝かせながら、言い放った
「参謀総長……、モスクワとの血の盟約、反故にしてみませんか」
じっと彼の顔色を窺うと、深い溜息をついた
「貴様等、まだ懲りてないのか。モスクワに背いた挙句、我々(ハンガリー)はどうなった。
党其の物が解体されたではないか」
 男の脳裏に22年前のハンガリー動乱の事が思い起こされた
ソ連国内のスターリン批判に乗じて、自由を求めて立ち上がった知識人や市民
2万人以上が犠牲になり、20万人が国外脱出を余儀なくされる
ソ連工作員の首相や大統領もその混乱に際してKGBの手で抹殺
当時の世界に与えた政治的影響は、計り知れないものであった


「本来、ハンガリーはモスクワの意向やドイツと関係なしに、独自の歴史を歩んできたはずです。
私の記憶が違うのでしょうか……。同志大将」
彼の話を一通り聞いた後、煙草を卓上にある灰皿へ押し付けた
右の親指と食指に握られた紙巻きタバコは、力強く揉み消され、真ん中から折れ曲がる

 眼前の老人は、ふと冷笑を漏らした
「スターリン以来の血の盟約を反故するのは明日にでも出来る」
顎を下に向けると、上目遣いで彼の顔色を窺った
「だが戦争に勝てるのかね」

「なければ、ここまで私は来ません。チェコスロバキアとポーランドから人を出す確約を得ました」
右の食指と中指でタバコを口に近づけると、火を点けた
 唖然とする男を尻目に、紫煙を燻らせる
「貴方方がモスクワに背けば、バルト三国も(いず)れや立ち
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