暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
ソ連の落日 その2
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を流し、膝をついて倒れ込む
殴ったのは、ヴァルター・クリューガー曹長だった
「同じ条約機構軍の兵士だからと言って容赦しない。上官への侮辱……、覚悟しておけ」
同輩が、悲鳴を上げる
「君、なんてことをしてくれたんだね」
 騒ぎに気が付いた政治将校と、憲兵が駆け寄ってくる
銀縁眼鏡を掛け、灰色の折襟勤務服に、少佐の階級章を付けた男が言い放つ
「貴様等、ハーグ陸戦協定違反だ。全員、重営倉(じゅうえいそう)にぶち込んでやる」
官帽を被った白髪の頭をこちらに向ける
「大体、同志ベルンハルト。君は問題を起こし過ぎだ。
言動も志向もあまりにも反革命的すぎる……」

「大体議長の秘蔵っ子だか、通産次官の婿だか、知らんが……。余りにも身勝手すぎる」
 そう言うと、腰のベルトに通した茶革の拳銃嚢から拳銃を取り出し、彼に向けた
星の文様が入った茶色い銃把にランヤードリングのが付いている
外観から類推すると、ソ連製のマカロフPM
ドイツ国産のワルサー・PP拳銃の粗悪な模倣品を使わざるを得ない東ドイツ軍の政治的事情
その事を示す様な事例であった
「状況によっては暴力をも使わざるを得ない……」
彼は、威嚇する男を煽る様に不敵の笑みを浮かべた
「説得できないからと言って拳銃を取り出して、恫喝ですか……。少佐殿」
男は青筋を立てて、言い放つ
「今の言葉を取り消したまえ。続けるようであれば、抗命と見做す」
彼は哄笑した
「政治局本部も、随分と質の低い人間を昇進させたものですな」

 騒ぎは次第に大きくなり、第一戦車軍団の中だけでは収まらなくなっていた
第三防空師団の兵士や、後から駆け付けた海軍の兵士迄見物に来ている模様
いつの間にかユルゲンたちを囲んでいた憲兵は、騒ぎを収めようと持ち場を離れてしまった
ちらりと、脇に目をやる
件の蒙古人は既に誰かによって、連れ出されていたようだ……
「君が良からぬことを企んでいるのは分かっているぞ、同志ベルンハルト。
略式だが軍法……」
 男がそう言いかけた直後、周囲の人垣が綺麗に分かれていく
官帽を被り、灰色のオーバーコートを着た人物が歩いて来る
開襟型の灰色の制服に、将官を示す赤地の襟章
金銀の刺繍が施され、空色の台布が縫われた肩章
その場に現れた空軍将校服を着た男は、第三防空師団長であった
「同志ベルンハルトと同志ヤウクは俺が預かる。文句はあるまい」

 第三防空師団本部まで連れ出された彼等は、師団長室に呼ばれていた
ユルゲンは、かつて所属した空軍の将軍に感謝を意を表した
「有難う御座います、同志将軍」
男は咥え煙草のまま、相好(そうごう)を崩す
「空軍士官学校創立以来の問題児の面がどんなものか、拝んでみたくなっただけよ」
そう言って、煙草を差し出す
早速、ヤウ
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