第二十一章 それでも顔を上げて前へ進む
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かしばらくどうでもよくなっていたし。
でも、
なんなんだ、この気持ちは。
いざこうして、自分の中に存在する、なんだか分からないながらも記憶、感情、の片鱗に触れてみると、どきり、どくん、破裂しそうなほどに、心臓が高鳴る。
不快な気持ちが大きな塊になって、胸の内側から突き破り、飛び出そうなくらいに。
知りたい、というわけではない、はずだ。
過去の、記憶なんかどうでもいい。そう思っているはずだ。
ただ、どうであれ、どう思おうとも、思わずとも、真実は一つなわけであり、心が勝手に、不安や恐れを抱いて、胸を内から激しく叩く。
嫌だ、怖い、逃げたい、そう思う自分がいる。
ともすれば、消えたい、無くなりたい、に繋がりそうな、純然たる負の感情。
なんなのかも分からないくせに、確固たる感情だけはそこにあり。
違う、違う!
なにが違うのか分からないが、でも、否定するように、思いを振り払うように、激しく首を振ると、赤毛の少女は、グレースーツの男、至垂徳柳を睨んだ。
「アサキ……ちゃん」
様子がおかしいことに気付いたのか、治奈が心配そうに、アサキの顔を覗き込んだ。
治奈の妹のことで、ここで対峙することになった三人である。
だというのに、治奈が一人、すっかり蚊帳の外になっていた。
蚊帳の外を置いて、リヒト所長は苦しそうな赤毛の少女にのみ、笑い掛ける。
「うん、確かに、わたしはいったね。すべてを思い出したくなったら、またここへおいで、と。つまりは、知りたくなった、ということかな?」
わざとであろうか。
話す内容も、タイミングも、まるで噛み合っていない、この言葉の投げ掛けは。
「違います。わたしは、フミちゃんを、助けに……」
焦り、つっかえながら、アサキが口を開く。
こうして焦りや不安を引き出すことが目的、というのならば、やはりわざとなのだろう。至垂のこの態度は。
「どうでもいいよ、そんなこと。それよりさあ、まだ、思い出さないのかい? 本当の、記憶を」
なんでも吸着しそうなくらいの、粘液質な笑み。
ねたあっ、と音が聞こえてきそうなほどの。
「そんなことこそ、どうでもいい! い、いま大事なことは……」
声を荒らげるアサキに対し、グレースーツの男は、待っていましたとばかり、笑みの粘度をさらに強めた。
その粘度で絡めとるように、アサキの言葉を遮って、
「先ほど、きみらが見た部屋ね、わたし個人の実験室なんだけどね。描かれた魔法陣は、超魔法による攻撃力を疑似的に再現出来るんだ。耐性テストに使うんだけど、ほとんどが、耐えられずボロボロの消し炭になってしまうんだよなあ。あんな精魂込
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