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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
原拠 その3
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「話を(はぐ)らかさないで下さい」
赤く鬱血(うっけつ)した頬を右手で擦る
彼女の右手を掴むと背中の方に向けて捻じ曲げる
「覚えて置くが良い。誰が貴様を作ったのかをな!」
委縮する彼女を正面の椅子に向かって、突き放す
その表情を見て、彼は満足そうに笑った
「まあ、良い。
後で、それなりに可愛がってやるよ……」


左の頬に鏡を見ながら湿布を張る
「俺が、なぜお前に似せて幽羅(ゆうら)を作ったのか……。
今日は気分が良い。ついでに包み隠さず明かしてやろう」
手鏡を下向きにして机の上に置く
「本気で世界征服を目指すなら、鉄甲龍の首領なぞは、むしろ男の方が良かった。
なぜ、女にしたのか。それは内側から瓦解(がかい)させる為よ。
仮に美男の(りつ)を首領にしたとする……。
例えば、シ・アエン、シ・タウ辺りを側女(そばめ)に置き、寵愛(ちょうあい)の対象にするようプログラムして居たら、俺は大変な苦戦を強いられたであろう……」
正面の椅子に座る美久は、彼を真剣な眼差しで見る
「だが、俺は(あえ)て幽羅を首領とし、耐爬(たいは)のような匹夫(ひっぷ)を用いるよう仕組んだ。
その結果はどうなった」
冷笑しながら続けた
「奴等は、俺と戦う前から、組織内で自らの仲間と戦い始めたではないか。
首領が男で、部下の殆どが女であったならば、等しく寵愛を授けるぐらい出来たであろう。
女では精々、対応出来ても二人ぐらいまでよ……。深い関係になって見よ。
もうその亀裂は修復不可能になる……、それ故そうしたのだよ」

「俺は、女の指導者や、女帝、女王の類は信用できん。
思い起こしてみよ。
(きら)びやかな祭器を作り、強大な軍事力を誇った西周は、幽王(ゆうおう)が美女と名高い褒?(ほうじ)という女性(にょしょう)を妃に迎え入れた事によって(まど)わされ、滅んだではないか。
ギリシャの残香(ざんこう)(ただよ)い、栄華を極めたプトレマイオス朝は、クレオパトラと言う、シーザーに取り入った(みだ)らな女王の為に、ローマの属州に落とされたではないか。
はるか遠い(いにしえ)の話ばかりではない。
あの女スパイ、マタ・ハリが色香の為に、どれだけの人命が世界大戦で(もてあそ)ばれたか。
俺は、女が……、女の指導者が怖いのだよ」

「無論、俺とて男だ。
多少は、人肌が恋しくなる時もある……。
だが、この世界に在って、現世より信用為らん連中に囲まれている。
蛾眉(がび)と語らい、佳醸(かじょう)()み、嘉肴(かこう)を味わう。
雲雨(うんう)の夢を見るのも良し。
ゼオライマーの力を持ってすれば、実現は容易(たやす)いであろう。
果たして、本当にそれで良いのであろうか……
思い悩むときもあるのだよ……」

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