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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
原拠 その3
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 自室に戻った後、美久はマサキの言動を問うた
普段の冷静な彼とは違い、今日はまるで気が違ったような振る舞いをする様に驚いたのだ
「なぜ、あのような振る舞いをなさったのですか」
野戦服姿の彼は、防寒外被のファスナーとボタンを鳩尾の位置まで(はだ)けて、中の下着が見える様
椅子の背もたれに、斜めに座る
左手には口の空いたコーラーの瓶を持ち、右手で目頭を押さえている
「あいつ等には、ほとほと疲れた果てた。
如何にあの化け物共を軽視してるか。解るであろう」

彼女は、冷笑する彼の方を向く
野戦服ではなく、上着を脱ぎ、ブラウスの上から深緑の軍用セーターを付け、スカートの勤務服姿
立ったまま、語り掛ける
「昨日の、あの対応は酷いじゃありませんか。
(いく)ら他国の制度とはいえ、あそこ迄貶(けな)す必要は……」
彼は、瓶を下に置き、居住まいを直す
「今は書類の上では自国だ。
俺は東ドイツ人の率直な質問に応じた迄だ。
そもそも、政威(せいい)大将軍等という形ばかりの制度など不要であろう。
政務次官より役に立たん」

 『政務次官』
大正期、維新以来続いた各府庁の次官自由任用による政治的混乱を収めるために、代替案として始まった制度である
しかし、政変や選挙の度に政務次官は変わり、役割も限定的、且つ不明瞭であった
官僚出身の事務次官の代用には為らず、《盲腸》とまで表現されるほど
当初の目標は形骸化し、人脈作りのポストとして看做され、1〜3回生の衆議院議員に当てられるように変質した
逆に、事務次官は政治の荒波のよる浮き沈みなも少なく、影響を保持、拡大する方向に成って行った
彼は、摂家から選出される政威大将軍を、前世の制度に(なぞら)えたのだ

「そもそも一つの血統ではなく、五摂家という曖昧なものにしてしまったのが間違いなのだ。
俺は、そんな物を有難がる馬鹿者共に媚びるつもりは毛頭ない。
鰯の頭も信心からという言葉があるが、人為的な教育の産物であろうよ。
まだ、一統の材料として、古の時代からある神裔(しんえい)を奉る方が自然ではないか……
おそらく出発点は、政治的荒波から禁闕(きんけつ)を覆い隠すための方策であろう。
連中は歴史的な経緯を忘れて、勘違いしている。
それ故、あのドイツ軍人の言動を用いて、気づかせてやった迄の事よ」

「何も揉め事を起こさなくても……」
彼は立ち上がって、右手で強引に美久を引き寄せる
「だから、お前は人形なのだよ……。
何方にしてもあの場で、あのような発言をさせた時点で、政治的な問題にはなっている。
どう頑張っても荒れるなら、荒れ狂うほどにまで騒ぎを起こせばいい。
それに、奴等にも外からの新鮮な感覚を味わわせる良い機会ではないか……」
彼の左頬を平手で打ち付ける

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