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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
燃える極東 その2
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 資源は有り余るほどあるが、採掘する機具も流通手段も不十分なこの地
人力に頼らざるを得なかった……
そこで目を付けたのが、囚人であった
シベリアの地は、帝政時代以来、政治犯や国事犯、軍事捕虜の流刑地
同地の開発で流された血は如何程であったろうか……、想像すらつかない
 1918年に、ボリシェビキ一派が暴力でロシア全土を占拠すると囚人の意味は変化する
無辜(むこ)の市民や農民といった政治とは全く無関係な人々まで、その定義は拡大した
政治的に危険視された人物は、その九族に至るまでこの自然の監獄に送り込まれる
帝政時代はシベリアに向かう政治犯に対して、時折(ときおり)心優しき土民は、暖かい差し入れや心づくしをしたがそれさえ禁止された
 1945年から1946年にかけて百万を優に超える日本人抑留者は、満洲よりこの地に連れ去らわれた
囚われ人は仮設の住居さえなく、薄い夏用天幕で凍える原野に放り出された
一説によれば、272万人の日本人抑留者は37万人がこの地で落命したという
如何に過酷であったかを物語る事例であろう

 はっと目を見開き、機内の観測機器を見る
接近する40機余りの機影……、恐らくソ連赤軍の戦術機
モニターに映る地上を走るBMP-1歩兵戦闘車やBTR-70装甲車は、ざっと見た所で20台以上
雨霰(あめあられ)と飛び交う弾丸やミサイル……、戦車や自走砲から放たれる断続的な砲撃
地響きのような重低音が響き渡る
砲弾の幾つかはゼオライマーの装甲板に直撃し、機体を振動させる
 T-64戦車の自動装填装置とは、これ程の物か……
ついつい一技術者として、ソ連赤軍の戦車性能に関心を持ってしまう
だが今は戦闘中……、気を取り直して椅子に深く座り直す
「美久、メイオウ攻撃の準備をしろ。出力は通常の30パーセントで行く」
操作卓のボタンを押し、即座に射撃体制に入れる様、準備を進める
「なぜ、出力を抑え気味で斉射されるのですか……。通常時の出力でも可能です」
グッと操縦桿を引き、推進装置を全開にして跳躍し、赤軍戦車隊の上空に出る
「小賢しい蠅どもに全力を掛けるほど、天のゼオライマーは安っぽいマシンではない」
 マサキの考えとしては、ソ連赤軍の部隊を(なぶ)(ごろ)しにする心算(つもり)であった
機体の奥底に居る美久は、その搭載されている推論型AIでマサキの思考を読み解こうとする
人間の知的能力を超越した電子頭脳で、彼が何を思っているか分かったのであろうか……
それ以降、押し黙ってしまう
その様を見て、ふとマサキは冷笑を漏らした
 勢い良く、垂れ下げていたゼオライマーの両腕を上げ、胸部にある大型球体の前にかざす
「この冥王の力の前に、消え去るが良い。(ちり)一つ残さずな……」
胸部にある球体が輝き
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