第二部 1978年
ミンスクへ
我が妹よ その2
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将軍の御嬢さん。
可愛らしいだろう。
まるで、天女の様じゃないか」
同輩は、酷く狼狽した
「お前、本当なのか……」
彼は真摯な眼差しで、狼狽する男を見る
「本当さ、あの穢れなき姿。
思うだけで……、十分さ。
望む事なら、妻に迎え入れたい位だよ」
「その言葉、本当であろうな」
背後から、低音で通る声が聞こえる
彼等は、後ろを振り返ると、逞しい体つきの男が、腰に手を当てている
綺麗に剃られた口髭の顔は厳しく、鋭い目付きで彼等を睨む
綿入れの野戦服上下を着た、彼女の父が居た
彼を、品定めするかの様に見つめ、黙っている
眉が動き、被った防寒帽が微かに盛り上がったかのように感じた
「今の言葉が、偽りでないのであれば、10年、いや5年待ってやろう。
貴様が、フリードリッヒ・エンゲルス軍大学を出て、佐官に昇進するのが最低条件だ。
無論、この戦争を五体満足で生き残り、幕僚として活躍できる自信があって、そう抜かしているのであろうな。
戯言であるのならば、この場で撃ち殺す」
腰のベルトに付けたホルスターに手を伸ばし、蓋を開けて拳銃を取り出す
銀色に輝くPPK(Polizei pistole Kriminal/刑事警察用拳銃)拳銃が握られた右手を、彼の方に向ける
弾倉は外され、食指は引き金から離されて伸びた状態ではあった
その姿に圧倒された彼は、確かめる余裕さえなかった
ベルンハルト中尉は脇目で、彼を見る
あの落ち葉を散らした顔色は、雪景色のように白く
灰色の人造毛の防寒帽は、汗で湿り変色している
彼は諦観する
深々と最敬礼をして、述べた
「御嬢さんを僕にくれませんか」
少将は銃を向けた侭だ
「貴様等は、こんな所で腐って地べたを這いずり回る様な存在ではない。
相応しい働きをして、それ相応の地位に就け。
先ず、男として遣るべき事だ」
眼前の男は、同輩の方を振り向いた
「同志ベルンハルト中尉!
貴様もだ。
貴様が国を思う気持ちも分かる。
だが、一人の父親として、わが娘の幸せを願うのも人情。
あのブレーメの娘御を愛しているのなら、何時までも焦がせるな。
人にも旬がある。
猶更、女だ……」
彼はそういうと、手に持ったピストルを拳銃嚢に静かに収めた
そして、背を向け歩き始めた
「明日は早い。夕刻までにはベルリン市内に入る。
良く準備をして、早く休め」
佇む彼等を後にして、月明りの中を、宿舎まで歩いて行った
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