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タンコロリン
第一章

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               タンコロリン
 大老松平正之は江戸城でその話を聞いてそれはという顔になって話をした者にこう言った。
「それはいかん」
「いけませんか」
「うむ、実った柿は全て取ってな」 
 そうしてというのだ。
「食せねばな」
「そうですか」
「若し渋そうなものや残りそうなものは干してな」 
 そうしてというのだ。
「干し柿にしてだ」
「食するべきですか」
「兎角柿は残すものではない」
 その実はというのだ。
「全てだ」
「食するべきですか」
「左様」
 正之はまた言った、見れば先の将軍であり兄であった家光よりも父の秀忠に似ている。その顔で言うのだった。
「さもないと厄介なことになる」
「厄介なこととは」
「それはな」
 その話をしようとした時にだった。
 人が来て彼に言ってきた。
「ご大老、上様が及びです」
「上様がか」
「はい、お聞きしたいことがあるとのことで」
 それでというのだ。
「お呼びです」
「わかった、すぐに行く。この話はまた機をあらためてな」
 柿の話をした者にはこう返した、そしてだった。
 この話は流れた、だが。
 冬になって江戸にある話が出た、その話は。
「入道が柿を置いていくのか」
「道にぽたぽたと落としてな」
「それは変わった話だな」
「そんなことがあるとはな」
「奇妙な話だ」
「全くだ」
 江戸の者はその話を聞いて言い合った。
「今は春だ」
「春に柿なぞ有り得ぬ」
「柿といえば秋だ」
「その入道は何者だ」
「春に柿を落とすなぞ」
「それは有り得ぬ」
「どういうことだ」
 誰もが不思議に思った、そして。
 正之はその話を聞いて先日柿の話をした者に話した。
「前の話の続きだが」
「実った柿は全て食せよと」
「そうだ、そのことだが」 
 今その機が来たと知り話した。
「その入道はあやかしだ」
「そうなのですか」
「タンコロリンという」
「そうした名前の妖怪ですか」
「うむ」
 こう話した。
「それはな」
「タンコロリンですか」
「そうだ、柿の実を放っておくとな」
「タンコロリンになりますか」
「左様、その柿の実があやかしとなり」
 そしてというのだ。
「そうしてだ」
「話では坊主となって」
「柿の実を撒く」
「そうするのですね」
「そうだ、だが退ける方法はある」
 正之の言葉は冷静なものだった。
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