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タンコロリン
第二章

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「ここはわしに任せてくれるか」
「ご大老に」
「うむ、江戸の街に出てな」 
 そうしてというのだ。
「あやかしを鎮めよう」
「退治するのですか」
「いや、刀を抜くには及ばぬ」
 正之はそれは否定した。
「そもそも江戸市中で刀を抜いては切腹だ」
「幕府の法で」
「それはわしも同じ」
 大老である自分もというのだ。
「だからな」
「それはされませんか」
「うむ」
 絶対にという返事だった。
「断じてな」
「それではどうされますか」
「そのやり方を見たいか」
「是非」
 その者は正之に身を乗り出さんばかりにして答えた。
「お供させて下さい」
「それではな、ついて参れ」
「有り難きお言葉」
 こうしてだった、この者は正之について彼のタンコロリンをどうするかを見ることにした。正之は会津藩の江戸屋敷からだった。
 お忍びで江戸の街に出るとすぐにだった。
 タンコロリンが出るという場所に向かった、すると。
 そこに坊主がいた、その者は坊主を見てお忍びの着流し姿の正之に言った。その頭には傘もあり顔も隠している。
「おそらくあの坊主が」
「タンコロリンであるな」
「そうかと」
「では今からだ」
「そのタンコロリンをですか」
「鎮めてみせる」
 こう言ってだった。
 正之はすっとタンコロリンの前に出た、そしてあやかしに微笑んで言った。
「柿を全部買いたいのだが」
「柿をですか」
「よいか」
「全部ですか」
 タンコロリン、坊主の姿の彼は正之に問うた。
「そうしてくれますか」
「うむ、幾らだ」
「全部貰えるなら勿体ない」 
 これが妖怪の返事だった。
「お金は最初からいりませぬ」
「ではただでか」
「はい、柿ならここに」
 タンコロリンは背中に背負う様な大きさの籠を出してきた、見ればその籠にだった。
 柿が山盛りに入れられていた、それを出して言うのだった。
「どうぞ」
「全部貰うぞ」
「そして食べてくれますか」
「一つ残らずな」
「それは有り難い、ではお願いします」
「うむ、迷わず去るがいい」
 正之はタンコロリンに微笑んで応えた、するとだった。
 妖怪はその姿を消した、そうして。
 正之は柿を入れた籠を自ら背負った、これには供をしていた彼が驚いて言った。
「それはそれがしが」
「よい、これも鍛錬だ」
「だからですか」
「気にするな、では江戸城に戻りな」
「そうしてですか」
「咲に屋敷で着替えて」
 会津藩のそこでというのだ。
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