暁 〜小説投稿サイト〜
ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode17『来年の事を言えば鬼が笑う』
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「――随分と、非道(ひど)いことしちゃったわね」

「そうだねぇ、正直かなり最悪の手だったが……まぁ、それでもこれが最善手だった。何とか、分かってもらうさ」

 ふう、と吐いた魔鉄(エセ)タバコの煙が風にすくわれて、瞬く間に夜明の大阪の空に消えていく。
 御堂筋から少し逸れた家屋集合地帯の端――かつて中規模の教会兼児童養護施設が構えられていたそこは、昨晩、凄惨な業火に包まれて壊滅状態にあった。

 だが不幸中の幸いとでも言うべきか、周辺住民の死者は無し。下手人である海外から密航してきたと思わしき製鉄師は既に確保、国のお抱えの特別拘置所(ブラックボックス)にて一時隔離処分となっている。

 だが全てが上手くいった、とも言えない。確保にあたり、現地に配属されていた数組の製鉄師たちは行方不明――恐らくは、該当敵製鉄師の持ち得る戦力から推定するに、鉄脈術による超高温により“消滅”。遺骨すら見つかってはいないというのが現状だ。

「何より優先すべきは、逢魔シンの崩界(モルフォーゼ)の阻止。そのためには、逢魔シンと宮真ヒナミの契約は必須条件――大丈夫よ、貴方は出来ることをしたわ」

「……やっぱ、気にしてるのはバレちまったか」

「何年一緒に居ると思ってるのよ」

 犠牲は覚悟の上だった――と、そう軽々しく言うのは簡単だ。だがそれは配備した己ら指揮者の都合。その犠牲になった本人たちにとって、死など受け入れられるものではなかった筈だ。

 戦場に身を置く以上、常に命の危機は存在する。彼らもそれは覚悟していた筈だが、しかし受け入れるか受け入れないか、という点はまた話が違う。

「大丈夫さ。もう慣れっこだ」

「そうね」

 目的は達成した。逢魔シンは契約を果たし、崩界(モルフォーゼ)は阻止。更には後の日本を担いうる新たなる柱――その元となる木の苗が生まれたのだ。
 収穫としては申し分なし、失った命と天秤にかけても大きくお釣りがくるリターンだ。文句の付けようもない、パーフェクトゲーム。

「ただまぁ、恨まれるくらいは覚悟しとかないとねぇ」

「今更何言ってるのよ」

 正直な話、あの製鉄師を捉えることは容易だった。
 自分自身が――白崎典厩が初めから出張っていれば、一切の犠牲を出さずにあの惨事を阻止することも出来ただろう。誰も傷つかず、誰も失わず、悪のみが淘汰される。正真正銘の完全勝利だ。

 だが、それでは意味がなかった。
 逢魔シンというOI能力者は既に“終わってしまう”寸前だった。彼が抱えていた爆弾が弾けていれば、被害は今回の事件とは比較にならない。周辺住民どころか、この大阪――いや、近畿地方周辺がまるごと日の海に沈んでもおかしくはなかった。

 それが、崩界(モルフォーゼ)という現
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ