第十章 とあるヴァイスタの誕生と死
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粒になり、緩やかに流れる風に溶けて、そこにはなにも存在しなくなった。
静寂。
世界中から集めに集めたような、濃密な静寂がそこにあった。
応芽は投げ捨てた騎槍を拾い、道路へと突き立てると、悔しそうな、悲しそうな、怒ったような顔で、きゅっと口を閉じ、青い空を見上げた。
のどかな町並みに、異様な静けさが落ちていた。
治奈とアサキは、まだ起きたことを受けいられず、青ざめた顔で身体を細かに震わせている。
肩と太ももに大怪我を負ったカズミが、地に倒れている。
左手のナイフを握り締め、先ほどまで白い巨人が立っていたところを、涙の滲んだ目で睨んでいる。
ぎりぎりと、悔しげに歯を軋らせている。
道路の真ん中に、ぽつり転がっている、平家成葉の死体。
なにかの冗談であるかのように、なんだか虚しく。
顔の肉をかじり尽くされ、骨も噛み砕かれており、あらかじめ知っていなければ誰とも分からないだろう。
顔だけではなく、腹の肉も概ね食われ、中の臓物も半分以上を失っている。
引き出され、噛みちぎられた小腸が、脇腹から垂れて、地をじんわり赤黒く染めている。
「酷い。……あんまりだよ」
静寂を破ったのは、アサキのかぼそく震える声であった。
「仲直りしたい。ただ、それだけだったのに。きっとその気持ちは、正香ちゃんにも、届いていたはずなのにっ!」
アサキは鼻をすすった。
うくっ、と声を漏らすと、澄み渡った青空を見上げ、わんわんと大声で泣き始めた。
でも、どれだけ涙や悲しみを吸い上げようとも、空の色はいささかも変わることはなかった。
カズミは、そんなアサキへと悲しげな視線を向けるが、すぐ強気な表情に戻すと、痛みに顔を歪めながらなんとか上体を起こして、あぐらをかいた。
大怪我を負っている太ももに手を翳し、自らに治癒魔法を施しながら、疑う目付きで応芽を睨んだ。
「ウメ、お前なんか隠してねえか? 間に合わなかった、とかなんとかいってたよな」
応芽がここに、慌てて到着した時のことである。
質問を受けた応芽は、騎槍の柄尻を路上に突き立てたまま、はあはあと息を切らすばかり。
言葉返さぬどころか、カズミを見ようともしない。
リストフォンのボタンを押し、変身解除して、ぶかぶかのTシャツ姿に戻った応芽は、息を切らせながら、空を見上げながら、右腕で目をこすった。
「なんとかいえよ!」
返らぬ答えに苛立ったか、カズミが声を荒らげた。
応芽は、なおも表情殺して空を見上げていたが、しばらくしてようやくカズミの言葉に反応したということか、寂しげな表情になった顔を落として、力のない声を発した。
「……あたしの、せいやな。結果的に、二人を喧嘩
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