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風鳴の末男は昼行灯
第一部 風鳴の末男は昼行灯
第一章 生い立ち
一話 風鳴の末男
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[1] 最後
「お前は風鳴の面汚しだ」

 その言葉は自分がまだ6歳の頃、父である風鳴訃堂から言われた言葉であった。
 自分の生まれは所謂未熟児であり、2000gにも満たない身体でこの世に生を受けた。自分の出生を聞いた父は「防人の家に脆弱な者は要らぬ」と大きく失望し、兄達の様な「八紘」「弦十郎」などの名前を父から貰うことは無かった。
 そんな望まれずに産まれた子を母は、独りで愛情を持って育ててくれた。幼い頃から虚弱体質で、兄達の様な武芸に秀でない自分に母は「歌」を教えてくれた。日本の「歌」の起源である「大歌」や「倭歌」果ては中世の西洋音楽まで古今東西様々な歌を母は教えてくれた。
 そんな優しい母は自分の唯一の拠り所であり、そして唯一自分を表現できる「歌」に、自分はのめり込んで入き、いつしか自分の心の中に一つの夢が生まれた。
 しかし「風鳴家」は昔ながらの武家であり、兄や親族達は「公家を気取った愚息」と陰口を溢し自分を認めてはくれず、自分自身も周りの親族達が信用出来ず、心を開かなかった。
 そんな自分に母は「歌は自分も周りも幸せに出来る力を持っていて、貴方にはその才があります。必ず貴方を認めてくれる人が、この母以外にも現われますよ…」そう言うと母は自分の頭を撫でで励ましてくれた。
 そんな母は自分を高齢で出産した事と、風鳴家の当主の妻としての長年の重責に耐え切れず、体調を崩すことが多くなってきた。
 ある朝、母に呼び出され、母の寝室に向かう。母のいる部屋に一声掛けて襖を開ける。そこに居る母は昔の様な風鳴家当主の妻としての威厳は無く、顔は痩せ細り、布団から見せる腕は老木の様に弱弱しく折れそうであった。そんな母は自分に気が付くと体を起こし始める。
「母上、無理をせずに…」
「これぐらい何ともありません、それより貴方は大丈夫なのですか?」
「はい、平気です…」
「………そうですか。」
 
 そこからは母と世間話をする。学校の勉強の事、友達と遊んだ事など、実際は周りに心を開けず、学校に友達の一人も居ないが母を心配をさせまいと嘘をついた。それがどんどん大きくなり、嘘にまた嘘を塗り固めた、大きな法螺話になり、自分自身、罪悪感と虚無感に話すことが辛くなる。
 そんな嘘だらけの法螺話を終えた自分に母は優しく声を掛けてくる。
「貴方は将来、何を目指すのですか?」
「えっ…」
 唐突な母の疑問に一瞬驚くが。しかし直ぐに嘘を吐く。
「風鳴の人間として…武芸に励み、立派な防人として…」
その言葉は親族達に話す常套句だ、こう言えば親族達は皆「精々精進しろ」と自分を虐めて来なくなる。目を反らしながら話していたが、ふと母と目が合うと、母は全て見透かす様な、真っ直ぐな目であった。そしてまた優しく語り掛ける。
「それは風鳴の人間としての言葉でしょう。本当の貴方は何
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