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風鳴の末男は昼行灯
第一部 風鳴の末男は昼行灯
第一章 生い立ち
一話 風鳴の末男
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をしたいのですか?」
「………。」
 諭す様に優しく話す母に自分は悩んでいた。母になら自分が長年心の奥に隠してきた来た夢を話していいのではないかと、しかしこの夢を母に認められなかったら…そう思うと自分はその言葉がどうしても喉から出なかった。
 下を向き、何も話さない自分に母は自分の名前を呼び、手招きをする。その言葉に従い母の近くまで寄ると、母の腕がゆっくりと自分の頭に伸び、昔に自分がよく強請っていた様に優しく撫でてきた。
「ここは私しか居ません、そしてこの母は貴方が生まれた時から、ずっと貴方の味方ですよ…。」

「母上……」
 もう腕を上げる事も辛いであろう母は、何度も優しく撫でる。そんな母に自分は、もう心配させまいと心に決め、親類達になんと言われようとも流さなかった涙が簡単に零れ落ちる。そしてあれほど話すことを躊躇っていた言葉が、あっけなく吐露していく。
「本当は…歌を歌いたいのです...自分の歌を多くの人に歌って、多くの人を幸せにしたい、だから…だから!」
 今まで周りに怯えながら隠していた夢と感情を全て話し、顔は涙と鼻水でグチャグチャであった。そんな自分に母は優しく微笑んで。
「ならば、その夢を叶えなさい。夢を諦めなければ、貴方なら叶います。」
「ですが…」
 自分はまだ恐れていた。風鳴の家の事を、この夢を母に話しても、父や兄達に話す事も、この夢を叶える勇気は無かったのだ。それを察してなのか、母はまた語り始めた。
「貴方は早産で産まれて体も小さく、父上は貴方に名前を授けなかった。ですから私は『風鳴の家に捕らわれない自由な名前』を付けたのです。」
 それは初めて聞かされる自分の産まれの名前にについての話だった。
「風鳴の家に束縛されずに「翔んで」「逸れる」ようにと翔逸(しょういち)と名付けたのです。」
 母は息子の名前の真意を語り、少し嬉しそうだった。
 そして名前の本当の意味を知り、その有難さに自分はまた涙を流した。
「貴方の夢を叶える所は、見れそうにありませんが…私は貴方が叶える所を…」
 母は窓の外の景色を眺めながら何処か寂しそうにそう呟く。
「母上!翔逸は必ず夢を叶えますから、そのような弱気な事を言わずに!」
「そうですね…母は少し休みます。翔逸、少し手伝ってくれませんか?」
「はい…母上」
 そして母を優しく横に寝かせ。別れの挨拶をして部屋を出た。

 この時、自分は決意した、もう己を偽らずに、母の願いと自分の夢を叶えるのだと。
 その日から兄達に怯えるのは辞め、自分の夢を叶えるために歌を歌い、兄の弦十郎から貰った古いギターを弾き続けた。新しい曲が出来る度に母の部屋に通い新曲を披露した。母は静かにその曲を聞き素直に喜んでくれた。

 そして母は自分が14歳の時この世を去った。しかし自分は決
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