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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
最高に最低な──救われなかった少女 V
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「えへへ、お見舞いっ。お花も持ってきたんだよー!」
「ふふっ、わざわざ……。そうかぁー」


ミニブーケを彩斗に見やすいように掲げる。やっぱり買っておいて良かったなぁ、と理子は心の奥で安堵した。
そうして「まぁ、取り敢えず腰掛けて」と勧められるままに、彩斗の向かいにあるソファーに背を預ける。ミニブーケを手渡すと、「どうもありがとう」と笑みを零してくれた。


「白百合に、薔薇に……。んー、これって何の花?」
「アンスリウムっていうの」
「アンスリウム。へぇ……」


理子が手渡したミニブーケには、どうやら彩斗の見慣れない花が入っていたらしい。それは真っ赤なアンスリウムだった。アンスリウムを基調に、濃紅色の薔薇と白百合との色合いが絢爛な紅と白の対比になっている。たった1本のアンスリウムと、7輪の薔薇、それを囲む白百合。「理子らしいね」と彩斗は呟いた。


「この花は全部、理子が選んでくれたの?」
「うんっ、フラワーショップの中を回って見てたの。あと、なんかこう、アンスリウムだけは凄く印象的だったんだよねぇー」
「直感は大事にした方がいいよ。そう思ったってことは、思ったなりの理由があるんだろうから。まぁ、困った時は従うのも間違いではないだろうけどね。たとえそれが、自分の説明出来ないようなことでも。……なんてね。なんか占いみたいだ。ふふっ」


そう言って、彩斗は冗談めかして笑う。病み上がりの病人とは思えないような、それこそいつもの如月彩斗の笑みだった。目尻の垂れた、えくぼの浮かんだ、口角の少しばかり上がった微笑。口元を手で隠すようにする、上品さすら感じさせる仕草。
立ち居振る舞いが、理子にはとうてい同年代の男子とは思えなかった。その印象は初対面の頃から今に至るまで続いている。大人よりも大人びている──そんな気がして仕様がなかった。

一刹那の微笑の後に、彩斗は緩慢に腰を上げた。そうしてキャビネットの上に据え置かれていた花瓶を持ってくると、テーブルの上の飲みかけの飲料水を、音を立てながら中に注いでいく。


「せっかく戴いたものだし、飾らなきゃ可哀想だから。光源氏の『くちをしの花の契りや──』ではないけれどもね。……見向きもされぬ路傍に在る名も無き花こそ、哀れな宿命だけれども。それを拾い上げて生かしてやるのか、見捨てて殺すのか」


ミニブーケの包装を解くと、青々とした茎の裸体が露わになった。それを彩斗は優しく手に掴んで、花瓶の中に生ける。
理子にはそれが途端に瑞々しさを増したように見えた。朝露に濡れたような淑やかさを一気に醸成していって、見る見る間に表情が変貌していくようにも、また思えていく。
「でもね──」指先で幾度か花弁の向きを整えてやってから、彩斗は満足気に頷いた。そうして、理子
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