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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
最高に最低な──救われなかった少女 V
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ざいます」


いつしか通話を終えていたらしい受付員の言葉に、理子は慌てて我に返る。彩斗のことを考えていたら、ほんの少しの待ち時間ですら上の空だ。何をやっているのだろうか、と自分自身に問答した自分ですら呆れ返ってしまうほどの馬鹿さ加減だった。頬はおろか、耳まで火照っているように感じてしまう。

ホント、なんでこうなっちゃうかなぁ……と呟きながら、理子は逃げるようにロビーから去る。そのままエレベーターホールまで足早に向かうと、意味もなく上りの矢印を連打した。
『──ドアが開きます』
ほどなくして開いた扉に、歩を進める。乗降者は自分以外に居ない。入院病棟のある最上階を行先に指定すると、あとは勝手に連れていってくれた。身体が浮くような、独特な感覚がした。

備え付けられている鏡越しの自分と、ふと視線が合う。艶美な金髪が気流に靡いて揺れ、或いは幾重にも弧を描いていた。
そうして知らず知らずのうちに、自分の顔がほころんでいたことに気が付く。誰かに『楽しそうだね』と言われてしまいそうな、実に平和的で穏和な自分の笑みを、理子は見詰めていた。

人差し指で口の端を上げてみる。そこに居るのは、いつもの自分だった。無邪気で軽快に笑う、誰もが知っている、自分。
「えへへっ」なんて、子供のような笑みが零れた。……そうだ、これでいいんだ。溜息なんて吐かなくても。これが理子だから。理子は理子らしく振る舞ってないと、つまらないもんね。


「それじゃあ、行ってくるねっ」


鏡越しの自分に、手を振りながら笑いかけた。







エレベーターホールから彩斗の病室まではすぐだった。表札には如月彩斗と書かれている。ここで間違いない。
理子はミニブーケを大事に抱えながら、小さく深呼吸する。扉の向こうから話し声はしないように聞こえる。前髪を簡易的に指先で整えると、「よしっ」と小声で呟きながらノックした。


「はぁい、どちら様?」


聞こえてきたのは、いつもの彩斗の声だった。暢気で、どこか間の抜けたように聞こえてしまう。それでも聞き慣れた、この声。
どうやら意識は取り戻したらしい。その事実に安堵しただけでもまた、口元が緩むのを理子は感じていた。せめて間抜けな顔だけはしていませんようにと願いながら、そっと扉を開く。

病室に備え付けてあるらしいソファーに、彼は背を預けていた。病院着として羽織っているガウンがお似合いに見えてしまったのは、それが絶妙にゆとりのある大きさだったからだろう。和服を着たら似合いそうかも、なんて考えも理子の脳内に過ぎる。
来訪人の姿を視界に留めたらしい彩斗は、意外に面食らったような顔をした。それでもどこか嬉しそうに、笑いながら問う。


「あれ、理子じゃない。どうしたの」
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