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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十八話駿馬は龍虎の狭間を駆ける
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はできんな」
「まぁ砲を持ってこれない以上、やむをえんでしょう。持ってきた分を撃ち込んだら逃げるだけです」
 中隊軍曹が苦笑して将校達にいった。
 普段使われないものがなぜこの作戦に使われたかというと答えは簡単だ。
 発射装置が軽く、三脚さえ使えれば設置に手間がかからないからだ。噴龍弾を二つかかる方が重いくらいだ。
 わざわざ取り回しの良い馬車を使って輸送した事もそれが理由である。
「導術、休んどる奴がちゃんと休めているか見ておけ」
 帰りも彼らに頼らねばならない。危険な博打なのは変わらないのだ。



同日、午後第五刻半 伏ヶ背より西方二里 旧農場〈帝国〉軍兵站倉庫
北部防風林
独立浸透打撃大隊 第三中隊 大隊本部付 村田中尉


「あ、あの中尉‥‥」
 ええんですか、という言葉を軍曹は飲み込んだ。本部から派遣された――彼はほぼこのためだけに引き抜かれた――村田中尉は異様な熱がこもった視線を遠眼鏡で三百間ほど先のそれなりに豪奢なつくりの屋敷へと注いでいる。
「いいか、確実に、確実に叩き潰せ」
 
 そう、皇龍道の攻撃する際の兵站拠点になり、今第5騎兵師団を中心とした防衛線を支えている兵站倉庫、そのかつての姿はこの男が大いに手を広げ、〈帝国〉にそのすべてを奪われた村田建材だ。わざわざ龍州鎮台ではなく、この護州軍に回された理由を彼自身も理解し、それを受け入れた。

「大隊本部より発射開始が発令!」
「よし各砲門各個に撃て!」
 ある意味酷くいい加減な兵器であったが、彼らは十全に役目を果たした。

 そして最大の打撃は、道案内に雇ったかつて農場主だった男の復讐心であった。彼は自分の住居を叩き潰す事を忘れていなかった。それは感傷だけが理由ではない。
 そこは彼の父が皇龍道再開発事業の際に、有力者を応接する為にちょっとした別宅が増築されていた。貴族将校共がそれを何に利用するかは答えは一つしかない。


 かつての栄華は〈帝国〉軍に接収され、この兵站部の司令と主計将校たちが詰めており、伸びきった兵站線と冬の到来に備えて激務を行っていた。
 そしてようやく、昼の混乱の収拾を着けようという時に彼らは光帯の向こうへ徴兵されていった。
 ほぼ同時に着弾したそれの一発は屋敷の本棟の壁を突き破り、その内部で燃え盛る油脂をぶちまけた。二発目は二階を突き破り、兵共の炊事場用天幕に直撃した。
 三発目は――漆喰壁を突き抜け、柱をへし折ろうとし、そこで派手に炸裂した。

 三発の噴龍弾を受けたこの兵站拠点の中枢はたちまち崩壊した。
 隣接した仮設倉庫や資材置き場に向けて適当に残りの噴龍弾を打ち込むと彼らは即座に撤退を開始した。
 丁重な観測は必要なかったなぜなら、第一、第二中隊は既に大量の六七式噴龍弾を叩き込んて
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